【ハイ檀です!】150 スイカ大尽 - 産経ニュース

【ハイ檀です!】150 スイカ大尽

大豊作となったスイカ
 梅雨明け以来、トコトン猛暑にいじめられている。暦の上では、とっくに秋になっている筈(はず)なのにまだまだ残暑が厳しい。縦長の日本列島、南北では天気がまるで違う。降るところには豪雨が猛威をふるい、崖崩れや洪水など痛ましい被害が生じている。が、我が家の周辺は極端に雨が少ない。従って、畑の作物の大半は青枯れ状態で、収穫など及びもつかない。夕方畑にタップリと水を撒いても、翌日の昼には砂漠のような状態になっている。畑を見るだけで、世の中の野菜不足の原因が、干ばつによるものと理解出来るのは悲しい。
 さりとて、我が菜園に福音はあった。乾燥が幸いしたのであろう、大好物のスイカが今季は大豊作。いや、福岡に移り住んで以来、スイカの収穫は殆(ほとん)どゼロ。これまでは、スイカが熟れると見計らってやってくるイノシシとカラス。他にも長雨で病気が発生して熟す寸前で腐ってしまったこともある。過去7年、毎年5株の苗を植えていたが、スイカとして口に運べたのは実は今年が初めて。
 6、7キロはあるだろう大物が合計10個ばかり、2番か3番生(な)りのものも10個程。ということは、1株に大小4個が生ったことになる。この嬉しい天からの贈り物を、盆休みを利用して訪れた孫に収穫させると大興奮。余りの重さに持ち上げられず、途中で落としてしまい真っ二つ。ただ割れただけだったので、丁寧にキッチンへ運びスイカジュース作りを依頼。2人の男の子は、このパフォーマンスに大喜び。最初は、スイカジュースに興味を示さなかった孫達は、自分たちの手でスイカの果肉からタネを抜き、ミキサーにかけてジュースが完成すると満面の笑顔。両親とジジババにジュースを注いでくれて、そのリアクションをつぶさに観察している。大人達がおいしいと言い、お代わりを所望するだけで、彼らは大いに自信をつけたようだ。今年のスイカは糖度がかなり高く、切ったものも、ジュースにしても素晴らしく旨い。甘味を加える必要は、さらさらない。
 その後、孫達はスイカジュースが大好きになり、日に何回も真紅の液体を自分たちで作り、味わうようになってくれた。そんな2人の姿を見るにつけ、食育の尊さを思い知るのである。このことは、先進国特有の傾向かも解(わか)らないが、料理をしない若者が急増しているという。ほぼ毎日、すべての食事をコンビニかチェーン店の食堂で済ませ、余り栄養価のことは気にしていないようだ。一部の女性は食べること自体を嫌い、ただただ細い身体を求めている。無知なダイエットを試み、病院に通われている方も少なくないようだ。
 こうした現実を打破する為にも、孫の誕生をきっかけに、ジジババは食の尊さを教えてやらねばならないと思う。決して無理矢理ではなく、子供が興味を示す方向を探り、料理の手助けをしてもらい、その出来はともかくとして興味を食べものに誘導する。例えば、餃子の餡を作ってもらい皮に包む作業から始め、包み終わったものをフライパンに並べてもらう。ガスのコックを捻(ひね)るだけでも、子供にとっては新鮮な出来事に映るらしい。ま、ガスとなると闇雲に触らせても事故に繋がるので、厳重な注意は必要。ともあれ言いたいことは、小学校の中学年くらいになったら、孫にベタベタするだけではなく、何かしら生きることへのモチベーションを高める方法を、親と一緒に見出すことが肝要であると痛感した次第。
 と、こじつけ気味ではあるが、改めて食育の重要さを教えてくれたスイカ。大きさから推察すると、店頭に並ぶと1個が1500円くらいはしているから、単純に計算しても1万5千円の売り上げが成立。加えて、300円程度の小物も10個。しかし、これは小さいだけでマズイ訳ではないから、スイカジュースにして付加価値を付ける。と、どう少なく見積もっても500円は固いだろう。等々と愚にもつかないことを言い始めたが、スイカの大豊作によって、孫に喜びを与えられたことは、老夫婦には想定外の喜びでもあった。
 もとよりスイカの原産地は、シルクロードのウルムチやトルファン近辺。ということは、乾燥にはべらぼうに強いのだが、毎年スイカが大豊作なるほどの暑さと乾燥はもう結構。スイカ大尽は、今年だけで十分である。老夫婦2人の暮らしには、2、3個あれば足りるので、お願いだから冬野菜を育む雨をお与え下さいますように…。
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【プロフィル】だん・たろう
 1943年、作家・檀一雄氏の長男として東京に生まれる。CFプロデューサー、エッセイストとして活躍し、「新・檀流クッキング」などの著書多数。妹は女優の檀ふみさん。