(7)君盃酒造 「愛される味」親子で追求

しずおか“お酒”巡り
主力商品の「君盃 純米吟醸」

 旧東海道に面した静岡市駿河区手越の酒蔵「君盃酒造」。水質の良さに定評がある安倍川の伏流水を使用した日本酒「君盃(くんぱい)」を生み出している。杜氏(とうじ)である市川誠司社長(79)と息子の英俊さん(51)の二人三脚で造るこだわりの酒だ。

                   ◇

 ◆生き残りかけ社長が杜氏に

 「正確には分からないが、江戸時代には蔵があったと聞いている」と英俊さん。しかも、「戦後、戦災に遭わなかったうちの蔵だけが残っていたようだ」と打ち明ける。こうした経緯を経て昭和25年、市内の酒造関連数社が出資して立ち上げた同社では、県外から招いた杜氏が中心となり酒造りを行ってきた。ただ、平成9年、生き残りをかけ、「杜氏が代われば酒の味が変わる」と言われるほど酒造りにとって重要な杜氏を社長自らが行い、新たな酒造りに挑戦し始めた。

 「地元や旧東海道を歩く人たちに喜んでもらいたい、愛される酒を造りたい」という思いを大切にしていると英俊さんは話す。

 現在は1回の仕込みで米の量の上限を700キロとしている。「2人で造るにはこれが限界」(英俊さん)と笑う。

 「君盃」という名は中国唐代の王維の詩「さあ、君に勧めよう、(すでに飲み明かしたが)さらに、もう一杯の酒を飲もうではないか」という「勧君更尽一盃酒」に由来するという。

 酒造りの命となるのは水。同酒造では安倍川の伏流水を使用する。地下水として常にわき出ており、そのまま飲んでもまろやかでのどごしがいい。この水を使用した日本酒は、香りは控えめながらも、ほのかに感じる酸っぱさが特徴。飲み口は雑味のないすっきりとした口当たりながらも辛口で、酸味と苦味と甘みをあわせ持ったような感覚だ。

 水はもとより米も命だ。兵庫県産の山田錦や滋賀県安土町産減農薬米を使用した酒に加え、静岡県初のオリジナル酒米「誉富士」を100%投入した酒も販売。誉富士は、「米のタンパク質含量が低く雑味のない酒が造りやすい」「まろやかで、ふくよかな味の酒になりやすい」という周囲からの言葉があり、投入を決めた。

                   ◇

 ◆季節感を意識した商品

 四季に合わせて原酒の貯蔵の仕方を変え、季節感のある酒造りにも取り組んでいる。一例を挙げれば、冬には特別本醸造の初搾り。「もみじ」という秋限定の「純米吟醸酒ひやおろし」など。こちらも好評を博している。

 市川さんはかつて、ある有名な酒の産地を巡った。「酒どころの酒を飲み歩いたことがあったんです。でもそこの酒は全部同じ傾向だった」と振り返る。一方で、「静岡はきちんと一軒一軒違う味の傾向を出していると感じる」と分析する。各蔵によって個性があるというのだ。だから「地酒として面白いと思う」と英俊さん。

 ラベルにも工夫を凝らしており、すべて2人で手作りしている。自前でラベルを作製することで、経費を抑えた小ロットの商品作りが可能になるという。

 英俊さんは「2人だけの小さな蔵元だが、多くの人たちに愛される酒造りを続けていきたい」と意気込む。(島田清)=おわり

                     ◇

 ■君盃 純米吟醸 主力商品の純米吟醸。いくつかの商品を取りそろえているが、売れすじの一品だ。米にもこだわっていることはもちろんのこと、使用する水は安倍川の伏流水。これまでの同社特有の「やさしい味」を保ちつつも、濃いトロッとした味わいが楽しめる。

 1800ミリリットル3456円、720ミリリットル1728円、300ミリリットル750円。

                   ◇

 ■君盃酒造

【代表者】市川誠司氏

【所在地】静岡市駿河区手越302

【創業】昭和25年

【資本金】1000万円

【従業員数】2人(市川代表含む)

【電話】054・259・3062