映画が繋ぐ人々の絆 「この世界の片隅に」舞台・呉の復興をファンら手助け

 

 アニメ映画「この世界の片隅に」の舞台となった呉市は、西日本豪雨で大きな被害を受けた。一部交通網が復旧せず、観光客も減少する中、映画を見て呉に親近感を抱いた人々が「物語の力で現実をつくりかえたい」とボランティアに続々と駆け付けている。

 呉市の傾斜地にある民家で、ボランティアたちが敷地に流れ込んだ石を手際よく片付けていた。

 うち1人の40代男性=東京都=は映画の登場人物などを描き続け、呉でイラスト展を開くほどの熱烈なファン。「縁もゆかりもなかったが、映画を通じ自分にとって大事な場所だと思った。それがこの物語の力だと思う」と汗を流す。

 舞台巡りで何度も足を運び、町並みに魅了された男性会社員(36)=滋賀県。「ひどく傷つく現地の方々の顔が浮かんだ。何ができるか考えた」。居ても立ってもいられず仲間3人で車で訪れ、土砂のかき出しを手伝った。

 地元もこの知名度をバネに復興への希望を託す。

 市によると、映画ゆかりの場所に被害は確認されなかった。町づくりに取り組むNPO法人「呉サポートセンターくれシェンド」の小野香澄さんも「『こんな時に』と思うかもしれないが、安心して来てほしい」と呼び掛ける。

 片渕須直監督が戦時下の日常を描いた映画は平成28年に公開され、大ヒット。市立美術館では9月9日まで、原作者、こうの史代さんの漫画原画展を開催している。豪雨で一時延期も検討したが、高元清貴副館長は「作品の『多くの人が支え合い、助け合って生きていく』というメッセージを届け、少しでも元気を与えられれば」と思いを語る。

 市は、主人公が嫁いだ家のモデルとなった場所を「すずさんに逢える丘」(仮称)として整備する計画を進めており、本年度中の完成を目指す。

 ファンが立ち寄るJR呉駅前の森田食堂の森田鈴子さんは、映画から生まれた人々との交流に勇気づけられた一人。「元気が出て落ち込まないで済むけん」。こんな時期だからこそ、一人でも多くのファンの来訪を待ちわびている。