「願成就院」(伊豆の国市) 源頼朝旗揚げの地 国宝仏5体が見守る名刹

甲信越静 夏の立ち寄りどころ
5体の国宝仏が祀られている願成就院の大御堂=16日、伊豆の国市寺家の願成就院(吉沢智美撮影)

 伊豆の国市寺家の国道136号から少し入った閑静な住宅街の中に、突如、荘厳な門構えが現れる。鎌倉時代の歴史書「吾妻鏡」によると文治5(1189)年に建立されたという名刹(めいさつ)、願成就院だ。

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 ◆展示会で一躍脚光

 門をくぐり、正面に待ち受ける大御堂へ向かうために石畳を歩く。人々が足を運ぶお目当ては大御堂にある5体の国宝仏。作者は東大寺(奈良)の金剛力士像に携わった仏師として有名な運慶だ。

 「上野で見てまた見たいと思って来ました」。鎌倉から訪れた夫婦がこう話すように、平成29年、東京・上野の東京国立博物館で開催された「運慶」展に同院の毘沙門天像が登場したことが同院の知名度を一気に高め、参拝者を増やした。大御堂の引き戸を開けると冷房とはまた違う、りんとした空気を感じる。

 仏像は時代によって流行がある。平安時代には貴族たちの好みにあわせ、柔和で優しげな仏像がはやった。仏師・定朝(じょうちょう)作の平等院鳳凰(ほうおう)堂(京都)の阿弥陀如来坐像などが有名で「定朝様」と呼ばれた。その流れに新風を巻き起こしたのが運慶だ。貴族から武士に権力が移行し始めた時代、一転して躍動感のある仏像が好まれ、たくましい姿や玉眼がはめ込まれるなどの特徴を持つ「運慶様式」が主流となる。

 その運慶の挑戦作とされているのが、願成就院の大御堂に奉納されている阿弥陀如来坐像や不動明王像などの国宝仏5体。運慶作の仏像としては東日本に現存している最古のものとされる。

 同院の建立は、「吾妻鏡」によると、源頼朝の奥州藤原氏征伐の戦勝を祈願したものといわれている。しかし、住職の小崎祥道さん(81)によると「奥州征伐の戦勝祈願のためというよりは北条氏の氏寺として創建され、完成の時期が奥州征伐と合致したため戦勝祈願されたと考えられる」と話す。同院は当初、北条氏の寺として繁栄を極めたが、15世紀末に戦火に見舞われると、仏像は無事だったものの、同院は衰退の一途をたどったとされる。

 ◆ご神木に良縁祈願

 大御堂以外にも見どころは多く、歩みを進めると1本の大きな木が目に入る。大河ドラマの原作でもある「新・平家物語」に登場するご神木・梛(なぎ)の木だ。源頼朝と北条政子が待ち合わせした場所とされ、ご神木にしては少々細身に見える幹だが、葉が丈夫で破れにくいことからも参拝者が良縁成就を祈願するという。同院では9月に、ご神木の種から育て、護摩法要で良縁を祈願した苗木を限定約100本、販売する予定という。境内には北条時政の墓もあり、源平ファンには垂涎(すいぜん)の場所だ。

 また、同院の本堂は寛政元(1789)年の改修以来かやぶき屋根造りを保っており、10年に一度、ふき替えなければならないが、小崎さんは「私の目の黒いうちは維持したい」と話す。

 現在注目を集める国宝仏たちは、度重なる戦火から逃げ延びてきたが、完全な状態で現存しているわけではない。小崎さんは、阿弥陀如来坐像を本来の姿に復元しようと、京都で仏像や文化財の修理を行う美術院国宝修理所に修理を依頼した。小崎さんは「自分が生きているうちに完成すれば」と阿弥陀如来坐像のよみがえった姿を夢見る。

 源頼朝公旗揚げの地であり、北条氏の本拠地でもあった願成就院。大御堂の静かな空間でたたずめば、仏像の鼓動を感じられそうだ。(吉沢智美)

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 ■願成就院 伊豆の国市寺家83の1。伊豆箱根鉄道「韮山駅」または「伊豆長岡駅」から徒歩15分。午前10時~午後4時(最終受付3時半)。毎週火、水曜日と8月15日、12月26~31日は休み。料金は大人500円、中高生300円、小学生150円。問い合わせは(電)055・949・7676。