「対馬の漁業が死んでしまう」 国境の島ルポ 漁獲量減り悲痛な声 - 産経ニュース

「対馬の漁業が死んでしまう」 国境の島ルポ 漁獲量減り悲痛な声

 長崎・対馬の漁業が不振と聞き、島を訪れた。漁師に聞くと、マグロ保護による環境の変化や、東シナ海での中国漁船による漁が、漁獲量減少を引き起こしているという。「このままでは対馬の漁業が死んでしまう」。国境の島から、悲痛な声が上がる。 (高瀬真由子)
                   ◇
 7月5日午前7時、島の中東部にある佐賀港に、漁船が戻ってきた。ヤリイカやアジなどを水揚げしたが、阿比留哲也船長(57)の表情はさえない。
 「漁獲量が年々減っている。6、7年前は1週間でトロ箱1千箱ほどになったが、今は良いときでも500箱。イカが極端に少ない」
 漁港のある峰町東部漁協では、小型漁船によるイカ釣りが盛んだ。だが、特にスルメイカの不漁が、平成28年ごろから続く。
 「船を出しても燃料代で赤字」「ほかの魚を獲り始めたが、生計を立てるのはぎりぎり」。漁師からこうした声が上がる。
 影響は漁師だけではない。近くのスルメ加工工場で働く男性(66)は「国内産が全然ないので、去年は韓国からイカを仕入れた」と話した。
 多くの漁師が、不漁の原因として、マグロ保護を挙げた。
 水産庁は27年、太平洋クロマグロの資源回復を目的に、漁獲規制を始めた。この規制によって、クロマグロの幼魚、ヨコワが増えスルメイカを食い荒らしている。そう主張する。
 対馬東部にある美津島町漁協の水主川(かこがわ)澄男組合長(66)は「ヨコワの影響は大きい。このままでは漁民が減るだけでなく、関連産業も落ち込んでしまう。水産庁は私たちの声を真剣に聞いてほしい」と訴えた。
 ただ、マグロ保護に取り組む水産庁は否定的だ。同庁が29年度にまとめた文書では「スルメイカの資源量は、海洋環境の変化によって変動する」として、水温の変化などが原因とする。
 科学的な原因解明が待たれる。
 ■奪い合い
 「対馬沖で、国内の漁船による奪い合いが起きている。漁獲量は10年前の3分の1だ」。対馬北部の比田勝で、巻き網漁船を操業する山田幸弘漁労長(54)は、こう話した。
 山田氏によると、5年ほど前から対馬北部や東部の沖合で、長崎市や佐世保市から来た船を、よく見かけるようになったという。
 「東シナ海における中国船の乱獲で、資源が少なくなり、国内の漁船がこちらに追いやられたのではないか」とみる。
 中国で消費される魚の量は、生活水準の向上、和食ブームなどで1990年以降、急増している。
 国連食糧農業機関(FAO)によると、2016(平成28)年の中国の漁獲量は8千万トンを超えた。世界全体(2億224万トン)の4割を占め、国別でトップに立つ。日本は436万トンだった。
 中国の漁業は、淡水魚も含めた養殖がメインだが、その巨大な胃袋を満たそうと、大船団が世界中の海で操業している。
 東シナ海では、日中漁業協定に定められた暫定措置水域や、中間水域に船団が繰り出す。
 水産庁九州漁業調整事務所(福岡市)によると、強い光でイカや魚を集め、数十メートル四方の網で一気に巻き上げる「かぶせ網漁」がみられるという。
 同事務所の漁業監督課長、西田貴亮氏は「中国船が、日本側の海域ぎりぎりまで来ることもある。事態が極端に悪化しているとはいえないが、無許可操業など悪質な違反も継続している」と語った。
 水産資源の保護を考えない乱暴な漁によって、中国船団の活動水域近くで魚が減り、その結果、日本の漁船が、少しでも魚の獲れる対馬周辺に集まった可能性はある。
 山田氏は「このままでは対馬の漁業は死んでしまう」と嘆いた。
 ■国防の観点
 対馬の漁業衰退は深刻だ。昭和57年は水揚げ高345億円、水揚げ量4万7千トンだった。その後の35年間で、量は7割減り、金額も6割減少した。
 漁協組合員も昭和58年の7900人から、平成28年は4100人になった。
 漁業の危機は、島の危機につながる。対馬市水産課の井田幸伸課長は「漁業は対馬の主要産業であり、水産業が元気にならなければ、地域は明るくならない」と語る。
 同課主幹の三原立也氏は「対馬は国境の島であり、漁業者が操業することは、中国や韓国の違法操業の監視につながる。国防の観点からも、漁業振興は重要だ」と話した。
 実際、海洋紛争と漁業は切っても切れない関係にある。米・国防長官府が2017年にまとめた「中国に関わる軍事・安全保障上の展開」の中では「2016年、中国は、南シナ海における海洋上のプレゼンスを高めるために、中国海警局(海警)、海上民兵、および漁船を利用した」と記している。