被爆者の苦難を小説に 長崎の松永さん、祖母ら題材

 

 長崎市の松永瑠衣子さん(26)が、祖母ら2人の女性被爆者の人生を題材に、小説を執筆している。2つのストーリーを見開きの右と左のページで、恋愛、結婚、出産と同時進行で進める。平穏な日常を一瞬で奪われた被爆者の体験を感じてもらい「二度と戦争を起こさないためにどうしたらいいか考えてほしい」との願いを込める。

 祖母のスエ子さん(84)と、語り部の下平作江さん(83)の誕生から現在までの人生を取り上げる。出版費用を募るクラウドファンディングを8月に始めるとしている。

 松永さんは子供の頃、被爆体験を聞くのも、当時の写真を見るのも怖くて嫌だったという。家庭では、被爆の話は差別につながるとしてタブーとされた。

 考えが変わったのは、高校2年の時だった。下平さんの平和講話がきっかけだった。下平さんは戦争と原爆で母ときょうだい3人を亡くした。被爆し生き残った妹は、繰り返す体の不調に耐えきれず終戦11年後、19歳で線路に身を投げた。下平さんはその時に、後を追えなかったといい、「死ぬ勇気を選べなかった」と話した。

 「家族の命を背負って生きてきた。どんなに苦しかったろう」。衝撃を受けた松永さんは、被爆体験の「継承」を決意した。

 昨年8月末、核廃絶運動を牽引(けんいん)してきた長崎の被爆者、谷口稜曄さんが死去した。「被爆者の声、もう聞けないかも。今しかない」。4年間臨時講師として勤めた市内の小学校を今年3月に辞め、本格的な取材と執筆活動を始めた。

 投下6日後の終戦の日に親族を捜しに長崎入りして被爆したスエ子さんと、下平さんの人生に接点はない。唯一、共通するのは原爆が落とされた瞬間だけ。そのページは左右ともに真っ黒に塗りつぶそうと考えている。