日本海中部地震あす35年 矢口高雄さん旧作が教訓「津波はどこでも起こる」 - 産経ニュース

日本海中部地震あす35年 矢口高雄さん旧作が教訓「津波はどこでも起こる」

「激濤 Magnitude7.7」(左)とベースになった記録「大津波に襲われた」
矢口高雄さん(酒巻俊介撮影)
 秋田県を中心に計104人の死者を出した日本海中部地震から26日で35年。「釣りキチ三平」で知られる同県出身の漫画家、矢口高雄さん(78)は津波に遭った人々の様子を当時取材、約30年前に「激濤(げきとう) Magnitude7.7」という作品に描いた。「地震大国の日本で、津波はどこでも起こりうる災害と知ってほしかった。『のど元過ぎれば熱さを忘れる』ではいけない」と振り返る。 (藤沢志穂子)
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 「激濤~」は秋田県つり連合会(秋田市)が、地震発生の昭和58年にまとめた記録「大津波に襲われた」がベース。タイトルは地震の規模を示している。県内の死者83人は、津波被害が大部分を占めており、何が生死を分けたのか、を釣り人や漁師などの生還者、遺族らに聞き取り調査した。
 この記録に「突き動かされた」という矢口さんが漫画化を思い立ち、翌年の昭和59年に男鹿半島を中心に追加取材。17のエピソードを元に「事実に基づいたフィクション」として、平成元年に青年漫画誌で連載を開始、17年に上下巻で文庫化された。現在は絶版だが、電子版で入手できる。
 作品では津波の悲惨さや兆候の見分け方、逃げ方も紹介した。「地震が来たらとにかく高台へ逃げる『てんでんこ』も知られておらず、『山が崩れるから海に逃げろ』という言い伝えまであった。海のそばにいると、地震の揺れを感じにくいことも紹介した」
 今も心に残るのは、行方不明になったままの息子を捜索するために多額の費用がかかり、工面に苦悩する父親の実話だ。「いつまで捜索するのかは『生きるも地獄、死ぬも地獄』」。諦めて供養した翌日に遺体が見つかったという。
 男鹿市の加茂青砂海岸で遠足に来た小学生13人が、津波で亡くなった様子にも衝撃を受けた。「手を伸ばせば救えそうな波間にいる子供たちが、引き潮に巻き込まれて消えていった」。だが作品化は見送った。学校側への責任追及問題などに配慮したためで、「痛恨の極み」という。
 「激濤」は津波の教則本として海外でも使われた。2005年にスマトラ島沖地震が発生したタイで日系NGOがタイ語に翻訳、日本政府の助成を得て、07年に現地の小学校や図書館に計6千部を無償配布した。日本の漫画の人気が高いことで実現したという。
 矢口さんは7年前の東日本大震災でも津波被害の作品化を考えたが、体調を崩していて果たせなかった。「日本人は忘れやすい。津波はいつでもどこでも起こる、と思い出してほしい」と警鐘を鳴らしている。