地熱発電、開発規制に県間格差 独自基準の大分と相対的に緩い熊本

 

 地下の熱水や水蒸気を使う地熱発電で、開発規制の地域間格差に温泉事業者が不安を抱く。厳しい独自基準を持つ大分県に対し、隣の熊本県は、国が定めたガイドラインだけで、相対的に緩やかだ。熊本の温泉事業者は「乱開発され、温泉が枯渇したらどうするのか」と懸念する。(中村雅和)

 「限界まで開発が進んでいる。今まで以上に厳しい規制を加えるべきだ」

 3月5日、大分県別府市の市温泉発電等対策審議会(会長、由佐悠紀京大名誉教授)は地熱開発の規制ハードルを上げるよう、市に答申した。

 同市にある別府温泉は湧出量・源泉数とも、日本一の規模を誇る。温泉資源は、別府市にとってはもちろん、「日本一のおんせん県」を打ち出す大分県にとっても重要性は高い。

 それだけに県は、地中の温水が枯渇しないよう、資源管理に長年、注意を払ってきた。

 地熱発電用を含め、温泉を掘削する際には、温泉法に基づく都道府県知事の許可が必要となる。知事は審査の上で、泉源が保護できないと判断した場合、不許可や採取制限を命令できる。

 大分県は昭和34年以降、温泉法に加え、井戸の口径など開発に関する独自の規制を、順次設けた。源泉の密度に応じて、保護地域を設定し、新規掘削も制限した。

 県の「重要財産」である温泉を、しっかり守るという姿勢を明確にした。

 さらに別府市に加え、九重町や由布市は平成26年以降、新規開発をチェックする独自の条例を定めた。こうした自治体では、温泉や地熱発電の開発に、県と市町の二重チェックが入る形となった。

 それでも、別府市内の温泉資源量は低下している。市が28年度に実施した調査では、30年前と比べ7割の源泉で、おなじ深さから出るお湯の温度が、わずかではあるが下がった。

 このため、市の対策審議会は今年3月、県への掘削申請に先立ち、事業者の計画を事前審査する仕組みを提言した。また、県に対しても、保護地域の運用を抜本的に見直すよう要望した。

 ■申請1・8倍

 九重連山をはさみ、大分県に隣接する熊本県は、温泉開発をチェックする独自条例を持たない。「環境省のガイドラインに沿って審査している」(県薬務衛生課)のが現状だという。

 環境省のガイドラインは、新規掘削場所と既存源泉の距離や掘削の深さなどに応じた、審査の先例を書いている。

 熊本県の中でも、「杖立温泉」「はげの湯温泉」がある小国町や、南阿蘇村は独自に、新規掘削に関するチェックの条例を持つ。ただ、別府市などに比べ、相対的に緩い。

 別府市の場合は事業者に「関係者の意見に真摯(しんし)に対応する」義務を課す。小国町の条例では事業に関する説明の義務しかない。

 地熱発電は、太陽光などに比べ発電量が安定している。再生可能エネルギーとして期待は大きい。

 特に小規模発電所は、再生可能エネルギー固定価格買い取り制度(FIT)で優遇される。

 地熱発電の買い取り価格は、出力1万5千キロワット以下の場合、1キロワット時当たり40円だ。一方、「買い取り価格が高すぎる」と批判もあった太陽光発電(2千キロワット以上)は、29年度以降、入札制になった。29年11月の第1回入札では1キロワット時当たり17~21円だった。

 FIT導入時のメガソーラーブームに代わって、小規模地熱のブームが起きそうな気配となっている。

 地熱発電事業者としては、より基準の緩やかな自治体を目指すのが当然の選択となる。

 環境省の統計によると、温泉法に基づく掘削許可の申請件数は、熊本県が平成27年度70件から28年度は124件と、約1・8倍に増えた。一方の大分県は27年度243件、28年度は157件と減少した。

 この申請件数に温泉・地熱の分類はないが、地熱利用も多いとみられる。

 熊本県小国町で温泉旅館「豊礼の湯」を経営する広瀬勝氏は「われわれは温泉で生活している。地熱開発による源泉枯渇などのトラブルがあっても、小規模事業者では補償もしてもらえない。県が違うだけで規制の基準が異なるのは、納得できない」と訴えた。

 日本地熱協会によると28年10月現在、全国の地熱発電所は38カ所、出力は合計で52万キロワットに上る。

 経済産業省は平成42(2030)年度までに地熱発電量を現在の3倍、150万キロワットに拡大する目標を掲げる。ただ、観光業をはじめ温泉が重要な経済資源となっている地域を考えれば、温泉資源の安定利用や保護策が求められる。