【地方プレミアム】「札幌市時計台」って日本三大がっかり名所? 記者が真相に迫った - 産経ニュース

【地方プレミアム】「札幌市時計台」って日本三大がっかり名所? 記者が真相に迫った

ビル群に囲まれた札幌市時計台。背景には27階てビル「さっぽろ創世スクエア」がそびえ立つ=5月7日、札幌市中央区(杉浦美香撮影)
ビル群に囲まれた札幌市時計台。左奥は27階てビル「さっぽろ創世スクエア」。ビルが映り込まないで写真を撮るのは至難の業だ=5月7日、札幌市中央区(杉浦美香撮影)
札幌市時計台。背景に27階てのビル「さっぽろ創世スクエア」が入らないようにするには見上げる角度で撮影する必要がある=5月7日、札幌市中央区(杉浦美香撮影)
札幌市時計台(旧札幌農学校演武場)が当初建てられていた跡を示す石碑=5月7日、札幌市中央区(杉浦美香撮影)
昨年、札幌市時計台2階に設置されたクラーク像。隣に座って記念撮影ができる=5月7日、札幌市中央区(杉浦美香撮影)
札幌市時計台の歴史を説明する外国語ボランティアの白取悦子さん=5月7日、札幌市中央区(杉浦美香撮影)
 「日本三大がっかり名所」の一つといわれる札幌市の観光名所、札幌市時計台。市役所と通りをはさんだ向かいという中心地にありビルに囲まれている。そのうえ今年秋、全面オープン予定の27階建てビルが背後にそびえたち、時計台の写真を撮影すると、どの方角からも写りこんでしまい「がっかり度」をアップさせているという。本当に札幌市時計台はがっかり名所なのか。
■借景がビル!?
 ゴールデンウイーク明けの5月7日。快晴にめぐまれた時計台周辺には、観光客らの多くがカメラを構えて時計台を収めていた。
 「建物が入ってしまうなあ」
 記念撮影をしていた仙台市の会社員、高橋健吉さん(69)がため息をついた。
 高橋さんは家族4人で札幌観光に。北海道が好きで何度も訪れており、時計台前を通るたびに記念撮影してきたが都市化が進み、撮影が難しくなった気がするという。
 愛知県常滑市から訪れた女性会社員は撮影した時計台の写真を見せてくれた。計5枚。どのアングルにも後ろのビルが映り込んでいる。
 「頑張ったけれどビルが入ってしまう。せっかくなのに残念」と話す。
 「がっかり名所だと思いますか?」と聞いてみたところ、同僚の加藤真衣さん(25)は「がっかりとは思わない。都会の中にここだけ雰囲気が違っていて、ちょっとかわいそう」と話していた。
 記者もビルが入らない時計台を撮影するべく、向かいのビル2階からや、通りをはさんでのショットなどぐるぐる回って探してみたが、難しい。近づいて下から上に向けて撮れば、ビルを入れずに時計台を収めることができるが、見上げる形になってしまう。
 この27階建てビルは「さっぽろ創世スクエア」。今年3月に完成した。高さ124メートル。放送局や事務所、文化芸術劇場などが入り10月に全面的にオープンする予定だ。
 時計台の真後ろには札幌商工会議所が入る北海道経済センターがあるが、9階建て。時計塔はビル5階建てに相当しており、これまでは道路を隔てれば正面からビルを映り込まずに写真を撮影することができた。
■開拓のシンボル
 札幌市時計台は、明治11(1878)年10月、札幌農学校(現北海道大学)の兵式訓練を行ったり、入学式などを行う演武場として建設された。建設を提案したのが、「Boys,be ambitious!(少年よ、大志を抱け)」で有名な農学校の初代教頭、クラーク博士だ。
 当初、「時計台」とよばれるゆえんの「時計」はなく、授業の開始を告げる鐘楼(しょうろう)が設置されていた。落成式に参加した当時の北海道開拓使長官の黒田清隆が時計をつけるよう指示。米国の懐中時計の老舗、ハワード社に注文したところ、鐘楼には設置できない大きさだったため、明治14年に鐘楼を撤去して時計塔を設置した。
 札幌農学校は同36年、北海道大学の現在地に移転したが、時計台は当時の札幌区に貸与され、同39年に市街地整備で約100メートル南の現在の場所に移転された。以来、戦争や火災を経ても焼けずに残り今の姿を保っている。昭和45(1970)年、歴史的建造物として国の重要文化財に指定。歴史ある建物なのだ。
■時計台の秘密
 「まちの発展、開発で時計台周辺に立ち並んだ近代ビルに囲まれていますが、よいこともあるんですよ」
 時計台を案内する札幌国際ブラザの外国語ボランティア、白取悦子さん(53)はこう教えてくれた。
 ビルに囲まれているからこそ冬季期間が長く、雪深い札幌で、当時の姿を今に残すことができた。ビルがある意味、防風林の役目を果たしているという。
 周囲の開発とともに移築の話もあったが、昭和41年の市議会で、現在の場所での永久保存が決議された。
 開拓時代に時計が設置されたのには理由がある。旧暦から変わった新暦を普及させるためだった。同様の時計塔が全国で72基設置されたが、現存しているのが3基。その中で最も古いのが札幌市時計台だ。
■本当にがっかり?
 記者が札幌市時計台を初めて見たのは平成20(2008)年の北海道洞爺湖サミット取材のときだ。
 もっと大きなものを想像していたが、ビルの中にたたずむこぢんまりとした時計台に拍子抜けした記憶がある。
 時計台が、はりまや橋(高知市)、守礼門(那覇市)とともに日本三大がっかり名所の一つといわれていることに、当時は納得した。ただ、このときは中に踏み入れていなかった。
 見学者は年間20万人を超えるが記者と同様、時計台の中を見ないで外観を撮るだけの観光客も多い。
 しかし、実際に見学して札幌市時計台がビル街の中に存在する歴史的意味を知ると、「がっかり」どころか、移転せずにこの地であり続けることに意味があるように思える。
 「北海道のイメージで丘の上に建っているように思う人が多いのでしょう。でも、近代の発展と歩みをともにしてきた時計台の歴史と札幌市民に愛され続けてきてきた思いを知れば違ってくるはず」と白取さん。
 時計台は24時間、今も2時に2回、12時には12回、140年の時を隔て、開拓時と同じ優しい鐘の音を響かせている。(札幌支局長 杉浦美香)
 メモ 開館時間(午前8時45分~午後5時10分)。観覧料、大人200円、小中学生・高校生無料。クラーク博士の像が昨年秋に新たに設置された。今年6月~10月、塗装修理工事で休館。