「地理的表示」で八丁味噌の乱 老舗vs愛知全域 中国が漁夫の利も

 
「カクキュー」ブランドを展開する「八丁味噌」社の蔵=愛知県岡崎市

 地域の農林水産物や食品をブランドとして保護する「地理的表示(GI)保護制度」で、「八丁味噌」の登録をめぐって愛知県内のみそ業者が対立を深めている。農林水産省は愛知県内全域の生産者に八丁味噌の名称表示を認めたが、同県岡崎市内の老舗2社が異議申し立てを検討しているのだ。両者の対立は、八丁味噌を連想させる名称を商標登録して漁夫の利を得ようとする中国での動きも招いており、農水省は対応を急いでいる。

 GIは製品の品質が特定の産地の伝統や気候と結びついていると認定し、名称を知的財産として保護する制度。認定された名称は、同じ製法でも他地域で作られていれば使えない。

 農水省は昨年12月、県内全域の生産者でつくる県味噌溜醤油工業協同組合からのGI申請を認めた。同時期、江戸時代に八丁味噌が生まれた岡崎市の老舗2社がつくる八丁味噌協同組合も木樽で2年以上熟成させるなどより厳しい条件でGI認定を申請していたが、こちらは認めなかった。

 農水省は老舗2社の申請を認めなかった理由について、「昭和初期には県内に生産が広がっていた」「老舗2社の製法も機械化されるなど、江戸時代から全く変わらないわけではない」などと説明している。一方、老舗2社は「誤った基準の八丁味噌が普及してしまう」と危機感を抱く。

 農水省は老舗2社に対し、県組合の基準を受け入れ、GIの使用団体として登録するよう求めている。農水省によると、老舗2社の製法は県組合の基準より厳しく、製造工程などを変える必要はないという。また老舗2社は同じGIのもとでも発祥の地であると明示するなど、県組合の製品と差別化した表示も可能だ。

 農水省が八丁味噌のGI登録を急いだのは、商標登録でも両者の対立が障害となり、知的財産保護が後手に回ってきたという経緯があるからだ。中国ではすでに中国企業が出願した「八丁」が商標登録されているうえ、兵庫県明石市のみそ会社の中国法人も赤みその商標として「八丁味噌」を出願中だ。

 日本側が中国で登録された商標を差し止めるには、中国での裁判が必要で莫大(ばくだい)な費用と手間がかかる。日本政府は今回の八丁味噌のGI認定を将来的な差し止め裁判を有利に進める材料にしたい考えだが、老舗2社が検討する異議申し立ての行方次第では混乱の恐れもある。(高木克聡)