キャリア半世紀超の小林稔侍が映画初主演 高倉健との出会いが実を結んだ「星めぐりの町」

映画深層
意外なことに今回の「星めぐりの町」が映画初主演だという俳優、小林稔侍(宮川浩和撮影)

 ベテラン俳優の小林稔侍(76)といえば、テレビの2時間ドラマや時代劇では渋みをたたえた主役を演じておなじみだ。今年でキャリア57年目となるが、映画はこれが初主演とは意外だった。1月27日に全国公開の「星めぐりの町」(黒土三男監督)で、心を閉ざした少年と交流を図る豆腐職人役として、やはり渋い存在感を示している。「よく思いがあれば何とかなるといわれるが、映画の主役に関しては、純粋に何も思っていませんでした」と小林は驚きを隠さない。

身の丈を見せる照れ

 映画の舞台は愛知県豊田市。妻を早くに亡くした勇作は、郊外の古民家に娘と2人で暮らしながら、京都で修業を積んだおいしい豆腐を作っては街まで配達する生活を続けていた。

 ある日、勇作の元に、身寄りのない少年を預かってもらえないかと依頼が来る。政美というその少年は亡き妻の遠縁に当たるが、東日本大震災で家族を失い、親類の家をたらい回しにされていた。

 渋々引き受けることにした勇作だが、政美は全く心を開こうとしなかった。

 勇作を小林が演じるほか、壇蜜(37)、高島礼子(53)、平田満(64)らが出演している。

 小林に出演依頼が来たのは、まだ台本も何もないころだった。「どんな話ですかと聞きもしなかった。映画の主役なんて想像もしていなかったから、うれしい限りでした」と振り返る。

 黒土監督が小林に要求したのは、小林稔侍そのままでいいということだった。

 「衣装も、稔侍さんがふだん着ているものでいいって言うんですよ。何だか僕の負のところばかりが出ちゃうんじゃないかと、とても照れくさくもありましたね。実際に完成した作品を見たら、お芝居には違いないけど、そんなに誇張することもなく、そのまんまなんです。だいたい自分の身の丈って分かりますが、みなさんにお見せするような身の丈でもないですしね。とにかく撮影中は、毎日ふらふらっと行っては真綿で首を絞められているようでした」と苦笑いを浮かべる。

あの人といられるなら

 和歌山県で生まれ育った小林は、中学のころから、東映のスターだった高倉健(1931~2014年)に憧れていた。高校卒業後に上京し、1961年、第10期東映ニューフェースに合格するが、当初から高倉のような輝ける星になるとは思えなかった。

 「最初は劇団俳優座の養成所に預けられた。そしたら一緒に入った俳優座の正規の連中が素晴らしいんですよ。もう、ものが違う。人生に対する、役者に対する心構えが違う。こちらの夢は去勢されたようなものですよ。養成期間が終わって撮影所に来たら、門の前で立ち尽くしました。人の数はすごいし、こちらの目線は低いし。これは大変だな、と思いましたね」

 なかなか芽が出ない中、大きかったのは高倉の存在だった。何かを教わったというよりも、ただ近くにいるだけでよかった。

 「24歳のときに、どこかで区切りをつけなきゃいけないと思った。よし、俺の人生はもうないんだ、これで終わったんだ、と。そう思うと、将来どうなろうとあきらめがつく。それはやっぱり、高倉健がいたからですよ。森の石松が清水次郎長(しみずの・じろちょう)に憧れて子分にしてくれっていう、あれと同じです。この人と一緒にいられるんだったら、芽が出なくても、花が咲かなくてもいい。そういう思いでずっと来ましたからね」

 こうして高倉の背中を見ながら、こつこつ脇役を演じ続け、やがて86年、NHK朝ドラ「はね駒(こんま)」のヒロインの父親役で注目を浴びる。99年には高倉と共演した映画「鉄道員(ぽっぽや)」で日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞するなど、その後は映画やドラマになくてはならない存在として引っ張りだことなる。

出会いは明日をつなぐ

 「やっぱり出会いなんですよ。高倉さんとの出会いが実を結ばせてくれたのかなと思いますね」と謙虚に語る小林によると、今回の「星めぐりの町」で演じた豆腐職人の勇作こそ、まさに高倉そのものだという。

 映画の中で、勇作は預かった政美少年に対し、特に何も語らない。ただ黙々と豆腐を作り、売りに行く。その姿を見ることで、政美の心に変化が訪れる。

 黒土監督も高倉のファンで、トレードマークだったジャンパー姿の場面も数多く登場する。「誰だってジャンパーぐらいは着るが、日本であの姿というとやっぱり高倉さんですからね。監督の希望とはいえ、何かまねしているみたいで気恥ずかしかったが、考えてみると、そういう思いを僕に託してくれる人がいるなんて、ありがたいなと思いますね」と小林。

 「だからこの少年が僕なんですよ」と認める映画の結末は…。「平たい言葉でいえば、出会いは明日をつなぐということですね」とにっこりとほほ笑んだ。(文化部 藤井克郎)

 「星めぐりの町」は、1月20日に愛知・イオンシネマ豊田KiTARA、トヨタグランドなどで先行公開後、1月27日から東京・丸の内TOEI、大阪・梅田ブルク7、福岡・イオンシネマ福岡、札幌・ディノスシネマズ札幌劇場、仙台・MOVIX仙台など全国公開。

 小林稔侍(こばやし・ねんじ) 1941年、和歌山県生まれ。61年、東映ニューフェースに合格。東映東京撮影所製作のアクション映画、任侠(にんきょう)映画、テレビドラマなどに多数出演する。主な作品に映画「冬の華」(78年)、「楢山節考」(83年)、「学校III」(98年)、「鉄道員(ぽっぽや)」(99年)、「珈琲時光」(2003年)など。テレビドラマは「なんでも屋探偵帳」シリーズ、「税務調査官・窓際太郎の事件簿」シリーズ、「夢暦長崎奉行」など数多くの人気番組に主演している。