世界最大級「鳴門の渦潮」に科学のメス 世界遺産に向けた本格調査でメカニズム解明なるか

関西の議論
多くの観光客が見学に訪れる鳴門海峡の渦潮。今月には「世界最大級」を裏付ける科学的調査が行われた(今年2月、本社ヘリから)

 「鳴門の渦潮」の世界遺産登録を目指す活動が兵庫、徳島両県で進んでいる。11月には渦潮の大きさや発生過程を調べるため、ドローンや浮標(ブイ)などを使った調査を実施。世界最大級といわれる渦潮だが、これまで科学的な裏付けに乏しく、本格的な調査は今回が初めてだ。今後、同様の渦潮が発生する国内外の海峡などでも調査を重ね、鳴門の渦潮の特異性をアピールしていくという。(秋山紀浩)

「直径約30メートル」の渦

 「この場所では、ひときわ大きな渦ができます。揺れるのでしっかりつかまっていてください」

 兵庫・淡路島と徳島・鳴門市を隔てる鳴門海峡で11月7日に実施された調査。取材で同乗した観潮船が渦潮に近づくと、担当者が注意を呼びかけた。この日は1年のうちでひときわ潮流が速い日だという。

 鳴門海峡の渦潮は、月と太陽の引力によって生じる潮位の差と、海底の複雑な地形が重なって起きる自然現象。満潮と干潮の前後の時間帯にみられる。

 幅約1・3キロの狭い海峡に勢いよく水が流れ込むことで生じ、大潮の時期には渦の直径が約30メートルに達するとされる。回転する渦を見られるのは数十秒程度で、距離にして数百メートルという。

 発生のメカニズムは地質学的にも貴重とされ、景観としても世界的に珍しいため、鳴門市や兵庫県南あわじ市から毎日多くの観潮船が出航し、年間100万人以上の観光客が見学に訪れる。

 一方、本格的な調査はこれまで行われていないため、正確な渦の大きさははっきりせず、発生メカニズムも科学的に裏付けられているわけではなかった。

 世界遺産を目指す調査は、兵庫、徳島両県の関係団体などでつくる世界遺産登録推進協議会が自然遺産と文化遺産を視野に行う方針で、徳島県が文化面を担当。自然面を担当する兵庫県が、今年度から平成31年度までの3年間で渦潮を科学的に調査することになった。世界遺産にふさわしい現象だと証明することで、まずは国内暫定リスト入りを目指す。

最新機器を導入

 今回の調査ではドローンなどの最新機器を使い、上空と海中の両面からメカニズムの解明を進めた。ブイによる調査では、調査員が漁船からGPS(衛星利用測位システム)装置の付いたブイを渦潮の上流から投げ込み、下流で待機した漁船が回収する作業を繰り返した。渦の位置や移動の速さ、回転速度などを調べるという。

 ドローンでは高度100~150メートルの上空から、渦潮の発生から消滅までの過程を動画や静止画で撮影。さらに高度約700メートルに待機させたヘリコプターや、大鳴門橋の主塔や管理通路に設置された定点カメラも使い、さまざまな角度から渦潮を撮影した。

 「現在の播磨灘側と太平洋側の潮位の差は約83センチで、潮流の速さは時速約17キロと想定されている。条件は整っており、あとはきれいな渦ができるかどうかですね」。調査に同行した県の担当者は話す。

 船からは次々と渦が生じる様子が見て取れたが、渦が大きすぎてどのくらいの規模なのか把握しにくかった。上空の映像が客観的なデータとして役に立ちそうだ。

 得られたデータや映像、静止画などは詳しく分析した後、来年3月に開く同協議会総会で発表する予定。淡路県民局の吉村文章局長は「鳴門の渦潮がどれだけすごい現象なのか科学的に立証することで、世界遺産登録に向けた活動を盛り上げていきたい。併せて、地域の貴重な資源として国内外にも積極的に発信していきたい」と話す。

ライバルは国内外に

 潮流の速さは世界有数で、イタリアのメッシーナ海峡やカナダのセイモア海峡と並んで「世界三大潮流」に数えられる鳴門海峡。ただ世界遺産に登録されるには、鳴門の渦潮が持つ普遍的価値の証明や類似の渦潮との比較分析が必要となる。

 同協議会は今回の調査を第一歩として、今年度中に本州と九州を隔てる関門海峡や愛媛県の来島海峡などで発生する渦潮についても調査し、規模やメカニズムなどを鳴門と比較、検証するという。

 さらに同様の渦潮が生じるイタリアや米国、ノルウェーなど海外でも調査を検討。「『世界最大級』と名乗るのには、それなりの根拠が必要。そのためには海外の事例とも比較しないと始まらない」と協議会のメンバーは話す。

 29年7月現在の世界遺産の数は1073件。うち「顕著な普遍的価値を有する地形や地質、生態系、絶滅のおそれのある動植物の生息・生育地など」を登録する自然遺産には、国内で屋久島(鹿児島県)や小笠原諸島(東京都)などが選ばれている。

 登録には、国の暫定リストに記載され、専門家による現地調査などを踏まえた審議が必要にある。道のりは長いが、協議会は「鳴門の渦潮は、浮世絵師の歌川広重の作品にも登場する日本を代表する景勝の一つ。科学的に価値が証明できれば、十分に可能性はある」と意気込んでいる。