栗きんとん 宿場町で育まれた素朴な味

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岐阜県中津川市の栗きんとんを集めた「栗きんとんめぐり」(寺河内美奈撮影)

 「栗きんとん」と聞くと、おせちの一品を思い浮かべ、時季は新春と捉えている人も多いかもしれない。実はこれとは全く別に、秋においしい「栗きんとん」がある。栗の甘露煮にサツマイモや栗のあんをまとわせた「栗金団(きんとん)」に対し、蒸してつぶした栗と砂糖を練り上げて作る栗きんとんは、岐阜県中津川市を中心とした地域の秋の名物だ。(松田麻希)

◆木曽山脈の山栗

 木曽路(旧中山道の一部)の玄関口に位置する中津川は、古くから交通の要衝として栄えた。各地の要人が行き交い、京や江戸の文化が流れ込む中で、菓子を含む食文化も発展していったとみられる。

 句誌「馬酔木(あしび)」を主宰した水原秋桜子(しゅうおうし)はこう詠んだ。「木曽人の手作る栗の菓子うまし」。自ら編纂(へんさん)した「季語集」(大泉書店)では栗きんとんを晩秋に区分し、「栗の実を砂糖で加工したもの」と説明している。

 中津川観光協会の大日方(おびなた)直博さんによると、中津川市にまたがる木曽山脈・恵那山はきれいな水や空気に恵まれ、昔から山栗が豊富に採れた。栗ご飯を炊いたり、栗をゆでて粉にしたものを餅にまぶしたりと秋の味覚を楽しむ中で、栗きんとんが生まれた。「商品化されたのは明治時代、中津川が工業の町としても発展したころ。出張のお土産などとして買われ、各地で評判となったそうです」と大日方さんは話す。

◆店ごとの味わい

 中津川の栗きんとんの材料は、ほぼ栗と砂糖のみ。栗を蒸してつぶし、裏ごす。それを砂糖と混ぜて練り上げ、栗の形に絞る。こうして出来上がる栗きんとんは素朴な味わいが魅力で、市内はもちろん、遠方から買いに来る客も。「栗そのものの味がする」「中津川の秋といえば、これ」「毎年買いに来る」とファンは多い。

 中津川には栗きんとんを扱う菓子店が30店ほどあり、裏ごしのキメの細かさや砂糖の量、わざと残した渋皮の具合などにより、店ごとに味の特徴が違う。その違いを楽しんでもらおうと、観光協会では市内菓子店の栗きんとんを集めた商品「栗きんとんめぐり」を平成19年から販売している。今年も、江戸末期から続く老舗「川上屋」など14店舗の栗きんとんが7種ずつ収められた「風流(ふりゅう)」と「ささゆり」が期間限定で販売中だ。「比べられることで切磋琢磨(せっさたくま)して、より良いものを作ろうとしている」(大日方さん)という。

◆コーヒーにも合う

 伝統の菓子に新風を吹き込む取り組みもある。東京・表参道のカフェ「エアストリームガーデン」では今月から、中津川で創業60年の「新杵(しんきね)堂」の栗きんとんをコーヒーとペアリングした新メニューを提供。同カフェを運営し、飲食事業を手がけるユインチュの小野正視(ただし)社長は「甘さ控えめのシンプルな味わいがコーヒーのコクと苦みにぴったり。深煎りの豆と合わせている」と語る。町歩きしながら味わえるよう、紙コップのスリーブにようじで菓子をぶら下げた。

 近年は海外からの観光客も多く、同カフェも客の半数以上が外国人という。かつて中山道を行き来する人々の中で生まれた小さな菓子は、国際色あふれる都心の往来で新たな一歩を踏み出そうとしているのかもしれない。

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