【スポーツ通信】パラ界の“レジェンド”スキー距離の新田佳浩 金メダル支えた日本の職人たち - 産経ニュース

【スポーツ通信】パラ界の“レジェンド”スキー距離の新田佳浩 金メダル支えた日本の職人たち

平昌冬季パラリンピックのスキー距離男子10キロクラシカル立位で手にした新田の金メダルには、日本の職人たちの技が隠されていた(共同)
スキー距離男子10キロクラシカル立位で優勝した新田のスキー板には、日本の職人たちが編み出したワックスが塗られていた(共同)
新田の金メダルには妻の知紗子さん(右)、長男の大翔君の支えがあった(共同)
ノルディックスキー距離男子10キロクラシカル立位でゴールし喜ぶ新田(桐原正道撮影)
スキー板に天候。日本の職人たちの技が新田に金メダルをもたらした(共同)
新田の平昌でのメダルには、日本の職人たちの技の結集があった(桐原正道撮影)
 平昌パラリンピックで日本は、前回ソチ大会の6個を上回る10個(金3、銀4、銅3)のメダルを獲得した。ノルディックスキー距離男子立位では、1998年長野大会から6大会連続出場を果たしたパラ界の“レジェンド”、新田佳浩選手(37)=日立ソリューションズ=が金銀2つのメダルを獲得。2冠に輝いた2010年バンクーバー大会以来8年ぶりに頂点に返り咲いた陰には、日本の職人たちの技があった。
 自然の中を滑るノルディックスキーでは、天候や気温によってめまぐるしく変わる雪質に合わせたスキー板やワックスの選定がタイムを大きく左右する。日本代表の荒井秀樹監督は前回の14年ソチ大会後、「日本の技術力で選手たちをサポートできないか」と考え、各界の職人たちを結集させた。
 気象情報会社「ウェザーニューズ」(本社・千葉市)のスポーツ気象チームは、1年前のプレ大会からチームをサポートしてきた。平昌パラリンピックでは浅田佳津雄チームリーダー(TL)ら4人が現地入りし、コース付近の雪上や雪中の温度、雪の固さなどを観測。プレ大会で得たデータも参考にしながら気温や風向き、雪質を30分ごとに予測し、試合前日と試合当日の早朝に情報を提供した。浅田TLによると、気象会社によるサポートは「世界でも珍しい取り組み」という。
 その情報をもとに、当日のワックスを決めるのはソチ五輪複合で渡部暁斗選手(29)=北野建設=の銀メダルを支えた佐藤勇治ワックスチーフ(WC)だ。板を滑らせるグライドワックスと、板を止めるグリップワックスは各200種類もある。さらにベースワックスや、滑走性を上げるために板に溝を作るストラクチャーなど、その日の天候や雪質に最適な組み合わせを何百、何千とある中から見つけ出さなくてはならない。
 この道約20年のベテランは、高校時代から毎日つけている“ワックス日記”による蓄積されたデータが強みだ。長浜一年ヘッドコーチと一緒に、異なるワックスをつけたスキー板を履いてはどちらが速いかを競い合い、天候や雪質ごとに適したワックスや配合を追求してきた。
 銀メダルを獲得した14日の距離1.5キロでは、15度近くまで気温が上がることが予想された。雪がどれだけ溶けるかなどのデータをもとに、佐藤WCはワックスをひと工夫した。ベースワックスを前日から冷やして剥がれにくくして、終盤まで効果を持続させた。佐藤WCは「万が一、雪が降れば一から作り直すことになる。絶対に降らないと言われたから前日から仕込むことができた」と、ウェザーニューズの情報提供に感謝した。
 17日のクラシカル10キロでは前日の想定よりも気温が低くなり、当日に予報を各時間帯で1.5度近く下方修正した。レース直前まで浅田TLと佐藤WCが情報をやり取りしながらワックスを塗り直した。
 10キロはコースを3周するが、3周目に気温が急上昇することが想定された。雪が溶ければワックスが剥がれやすくなるため、耐久性の高いワックスをベースに引いて対応した。「いかに滑るかだけを考えてもダメ。最後までどう滑走性を保つか」と佐藤WC。3周目で新田がぐんぐんペースを上げる中、ワックスが剥がれた海外のライバル選手は板が滑らず、タイムを落としていった。
 新田は2周目までトップと11秒あったタイムを縮め、最後は逆転して2位に8秒差をつけてゴール。無冠に終わったソチ大会の悔しさを晴らした。
 「僕一人で取れたわけではない。ワックスや気象のスタッフが細かに情報伝達してくれた。支えてくれたいろんな人たちとメダルが取れた喜びを分かち合いたい」と新田。気まぐれな平昌の天候を味方につけての大逆転劇だった。
 ウェザーニューズ社はこれまでも15年ラグビー・ワールドカップ(W杯)や16年リオデジャネイロ五輪などで代表チームをサポートしてきた。浅田TLは「ここまで天候が道具や戦術を左右する競技もなかなかない。今まで以上に手応えを感じている」と話し、20年東京五輪・パラリンピックへ向けてさらなるサポート強化を誓った。(運動部 奥山次郎、川峯千尋)