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【ザ・インタビュー】現代人の「お守り」探究 作家・東郷隆さん『病と妖怪 予言獣アマビエの正体』

文壇随一のモデラーとしても知られ、自作したアマビエのフィギュアを前に「これをもう10個作りたい」と笑顔をみせる東郷隆さん(萩原悠久人撮影)
文壇随一のモデラーとしても知られ、自作したアマビエのフィギュアを前に「これをもう10個作りたい」と笑顔をみせる東郷隆さん(萩原悠久人撮影)
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 「病が流行します。早く私の姿を描き写して人々に見せなさい…」。新型コロナウイルス禍の日本を、1匹の妖怪が席巻している。その名はアマビエ。疫病退散の御利益と脱力感漂う風貌とがあいまって令和の現代人に大ヒットしたが、由来は江戸後期の瓦版にさかのぼる。博覧強記で知られる作家、東郷隆さん(69)の新著『病と妖怪 予言獣アマビエの正体』は、この妖怪の起源に迫る。

 緻密な考証に基づき、大胆な奇想を展開させた時代小説には定評がある。ことに怪異を題材にした作品を好んで手掛けてきた。

 今作はその歴史や民俗についての博識をいかんなく発揮し、昨年来ブームのアマビエをはじめ、人々に将来の災厄を告げる「予言獣」というべき一連の妖怪について、縦横に考察を広げるエッセーだ。

 「結論から言えば、江戸時代後期の当時、いろいろな存在が予言しているんですよ。割合でいえばサルやらウシやら、動物が多い。実はアマビエはその一派生にすぎないのです」

 アマビエの原典ははっきりしている。「肥後国海中の怪」と題された1枚の瓦版だ。そこに描かれたアマビエは長い髪にひし形の目を備えており、くちばしが特徴的。胴にはうろこがあり、足は3本で、人魚と鳥を合成したような独特の姿だ。弘化3(1846)年の年号が入ってはいるが、これはあまり信用できないと東郷さんは指摘する。当時の瓦版売りの商売を考えれば、病が流行した後で少し古い年号を入れた瓦版を作って売りさばく“予言の後出しジャンケン”が想定されるからだ。

 時代が幕末にさしかかった当時、コレラに代表される死亡率の高い伝染病の流行が何度も起きており、民衆にとって地震や火事、飢饉と並ぶ恐怖の対象だった。医術も医療体制もあてにならない前近代、人々は心のよりどころとして護符やお守りを切実に求めた。

 「ですが、個人のお守りとして絵や立体造形物が出てくるのは意外と遅い。たとえば平安時代や鎌倉時代の人は、絵を持ち歩くことはしなかったでしょう」

 江戸期に木版印刷が高度な発展を遂げ、庶民でも手軽に印刷された絵が買えるようになると、護符の世界でも次々に新商品が生み出された。疫病除(よ)けの人魚の絵図も、起源は文化2(1805)年の赤痢流行時までさかのぼるという。時代が下るにつれ、3本足のサル「あま彦」や人面牛身の「件(くだん)」など数々のバリエーションが創作される中で生まれたのが、あの特異な人魚型のアマビエだった。

 「格好が特殊なのに加え、絵にヘタウマ風の味もあって、それがウケたのでしょう。サルの頭に足が3本ついているとかは、ちょっとグロテスクだからね」

 ミリタリー雑誌の編集者を経て作家となり、今年でデビュー40年目を迎えた。中世の甲冑(かっちゅう)から現代の戦車まで、戦争にまつわる物品への造詣は深い。本作執筆の背景にも、英国ロンドンの帝国戦争博物館で見かけた、第一次世界大戦で兵士たちが身に着けていた大量の「お守り」から受けた強い印象があった。キリスト教関連の品ばかりではなく、ウサギの足やクジラの歯、女性の髪の毛、ケルトやゲルマンの呪文など、雑多な縁起物であふれた展示。危機的状況下で身近な携帯物に心の支えを求めるという、洋の東西を問わぬ人間心理がそこにあった。

 「現代人にとってお守りとは何かという問題を考えたかった。お守りは本当に人それぞれ。その一つがアマビエなのでしょう。いま、あれが本当に海中から出てきたと信じる人がいるわけはない。でも、昔の人が信仰していたのだからもしかしたら、という思いと、姿がかわいいというのがあって、癒やしになるのでしょう。それがアマビエの正体といえる。そこまで言うと身も蓋もないので、書きはしませんでしたが(笑)」

3つのQ

Qコロナ禍での日常は?

ずっと家にいて、アマビエのフィギュアを作ったり、実物大の鎧(よろい)を作ったりして過ごしてましたね

Qいまやりたいことは?

アマビエをもう10個くらい作りたい。シリコンで型取りして大量生産したい

Q博覧強記と執筆の関係は?

知識を全て自分の頭に入れておく必要はない。司書のように、どこから持ってくるかのノウハウが重要

(文化部 磨井慎吾)

     

とうごう・りゅう 昭和26年、横浜市生まれ。国学院大卒。同大博物館研究員、編集者を経て作家に。平成6年、『大砲松』で吉川英治文学賞新人賞。16年、『狙うて候 銃豪村田経芳の生涯』で新田次郎文学賞。24年、『本朝甲冑奇談』で舟橋聖一文学賞。著書は『定吉七番』シリーズなど多数。

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