PR

ニュース プレミアム

「歌の国」ウェールズに本場の合唱を学ぶ ラグビーW杯“もう一つの物語”

合唱交流の成果発表会でそれぞれの歌声をオンラインで合わせて歌唱を披露する「オンリー・ボーイズ・アラウド」のメンバー(成果発表会の画像から)
合唱交流の成果発表会でそれぞれの歌声をオンラインで合わせて歌唱を披露する「オンリー・ボーイズ・アラウド」のメンバー(成果発表会の画像から)
その他の写真を見る(1/2枚)

 2019年のラグビー・ワールドカップ(W杯)日本大会で代表チームが拠点とした九州の地元と交流を深めたウェールズ。一方で「歌の国」といわれ、W杯でも国歌斉唱が話題になった。W杯後にそれがスポーツを超えて青少年による“合唱交流”に発展、本場のレベルの高い指導を通して日本の合唱団は大きな成果を得ることができた。

 ラグビーのウェールズ代表は福岡県北九州市を事前と公式のキャンプ地とし、W杯では大分県と熊本県で試合を行った。その機会を利用して地元との交流を図り、ラグビーの次に注目されたのが合唱だった。

 歌手のトム・ジョーンズやシャーリー・バッシー、ボニー・タイラーもウェールズ出身である。最近は、シャルロット・チャーチ▽キャサリン・ジェンキンス▽▽ダフィー▽ステレオフォニックス-らが人気だ。

 だが、ウェールズの歌の文化は歌手の輩出だけでなく社会に根付いている。そこで、交流を通じて多様な文化を学び、相互の文化芸術の振興と継続的な発展の基点をつくろうと、2020年を機に始まった日英交流年「UK in Japan」の強化事業の一環で合唱交流が企画された。

 指導したのは、ウェールズの男声合唱団「オンリー・ボーイズ・アラウド(Only Boys Aloud)」。2012年にオーディション番組で3位になり、デビューアルバムをリリースした。番組動画の視聴は3千万回に達する。

 指導を受けたのは、大分県立芸術緑丘高校合唱部▽熊本県立八代中学校・高校合唱部▽熊本県立熊本高校合唱部▽北九州アカデミー少年少女合唱団-。ウェールズ語の課題曲を基に、1月からオンラインで、練習映像の共有や、発声などの歌唱技術、練習前の体操といった指導を受け、3月に成果発表会を行った。

人をつなぐ歌の力

 「ウェールズ語では語尾の子音をはっきり言うのが難しく、歌に乗せることに苦労した。でも新しい言語に触れることができ、いい経験になった。歌う前には体操で体をリラックスさせることが大切と分かった」

 学んだのは技術だけではない。「声は自分のためにきれいに出さなければと考えてしまうが、聴く人がいるから音楽はつくれると教わり、聴く人のために歌う気持ちを大切にしたいと思うようになった」

 OBAはコロナ禍で合同練習ができていない。「数週間で上達していく様子を音から感じ取り、新しい教育方法を学んだ」と自らも貴重な機会となったという。成果発表会では、メンバーの歌声を画面上で合わせたが、圧倒的な歌唱技術とまとまりは「さすが本場の力」と驚かせた。

 英ウェールズ政府のロビン・ウォーカー日本代表は「オンラインでも交流ができたのは想像力と技術革新のおかげ。これからも続けたい」。支援した文化庁文化経済・国際課国際文化交流室の鈴木律子室長は「画面越しを感じさせない交流ができた。音楽と文化はコロナ禍も克服してくれると感じた」と語った。

 各自治体はW杯を契機とした交流のレガシーとして続けていく意向だ。とくに熊本県は交流が一つ加わった。海産物のノリの養殖技術を可能にした熊本県水産試験場があるが、ノリはウェールズの伝統食材。約70年前、英国の海藻学者がウェールズの海岸で採取した貝殻の研究成果が技術の基になった。記念碑を建立し、祭事を行っている。

歌は生活の一部

 ウェールズが「歌の国」といわれるのは固有の社会とかかわりがある。その要素が言語と炭鉱、教会だ。

 ウェールズ語は子音を重ねた文字が独特の詩情的な音になるといわれ、音楽を奏でるような優雅さを感じさせるという。J・R・R・トールキンの児童文学『ホビットの冒険』や『指輪物語』で妖精の言葉の基になったといわれる。

 18世紀に入り、石炭や鉄の採掘が盛んになると炭鉱労働者で人口が急増する。新しいコミュニティーが生まれ、過酷で危険な労働の慰めと社交になったのが、集まって歌うことだった。男声合唱団の誕生である。一方、英国国教会から分離したメソジスト派の復活で牧師の力強い説教とともに教会での聖歌隊や賛美歌の合唱が広まったという。

 ウェールズの炭鉱町を舞台に、アカデミー賞作品賞などを受賞した映画『わが谷は緑なりき』(1941年)は、ひと稼ぎした炭鉱労働者が集団で歌いながら帰宅する場面で始まる。「目を開ければ物が見えるのと同じように、歌うことは生活から切り離せなかった」という語りが入る。

 「恵まれない社会では歌うことは最も民主的な道具で費用もかからない。歌うことが新しいコミュニティーをまとめるのに役に立った」。英BBC放送は合唱団の音楽監督らの話からこう伝えている。

 炭鉱の時代は終わっても合唱団は残り、歌唱の伝統は世代を超えて受け継がれてきた。いまも伝統と祖国への誇りが歌手を目指す者の自信につながっている。

(文化部 蔭山実)

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ