PR

ニュース プレミアム

コロナ禍で存在感増す「ソニックトリガー」 SNSなど「音」のサービスに勢い

「クラブハウス)」のアプリダウンロード画面
「クラブハウス)」のアプリダウンロード画面

 新型コロナウイルスの感染拡大で在宅時間が延び、パソコンやスマートフォンの画面を見る機会が増えた人も多いだろう。こんな「目」からの情報が過多ともいえる今、「音」を使ったサービスが脚光を浴びている。「Clubhouse」(クラブハウス)などの音声SNS(会員制交流サイト)をはじめ、さまざまな指示をこなすスマートスピーカー、アプリを使った癒やしのサービスなどだ。マーケティングの現場で使われるという、何かを思い出すきっかけになるという音「ソニックトリガー」(音の引き金)に出合う場面が、コロナ禍の今、増えている。(文化部 兼松康)

音声SNSで交流

 外出自粛などをきっかけに、ネット上の“新しいもの”への関心が一気に高まる傾向にある。米国発のクラブハウスもその一例だろう。ツイッターやインスタグラムなど既存のSNSで多くのフォロワーを持つ芸能人らがいち早く試し、異例の速さで一般にも認知が広まった。

 クラブハウスは、「room(ルーム)」を作ったり、すでにある「room」に入ったりして、あるテーマに基づく話をしたり聞いたりすることができる。文字ではなく音声を使ったSNSのプラットフォームだ。音声SNSの急速な広がりに、文字のSNSの代表格であるツイッター社も「Spaces(スペース)」を開発し、3月2日にAndroid(アンドロイド)のスマホユーザーへの開放を発表。他にも、もともとはゲーム配信者向けのサービスだったボイスチャットの「Discord(ディスコード)」など、複数の音声SNSサービスが台頭してきている。

 インターネットを通じたオンライン会議などは、昨年春の緊急事態宣言をきっかけに一気に普及が進んだ。在宅時間が増加し、テレワークでは連絡手段となるパソコンやスマートフォンを注視。画面上のテキストを読み、会議で動画を見る機会も多くなった。加えて、仕事の息抜きにテレビやユーチューブなどの動画サービスを利用することも。「目」から得る情報はすでに飽和状態になっているともいえる。

 音声SNSは、「見る」ことに疲れた人が、音声のみのやり取りに新鮮さと心地よさがあることに気づいた面もありそうだ。

 クラブハウス内の「ルーム」に入る場合、別のことをしながらふらりと入って他の参加者の話を聞くだけでもよい。音声でやり取りしようと思えば、ボタンを押して割って入れる。クラブハウスへの参加は、すでに参加している人からの招待制で、無限に開かれているわけではないことも安心感につながっている。

 基本的に聞くだけのラジオやポッドキャストと、文字によるやり取りとなる既存のSNSのいいとこ取りをした感覚だ。

音でつながる思い

 コロナ禍の現在、人とのリアルなコンタクトを以前のようには取りにくい。だから、文字よりもさらに“生身”を感じられる音声を通じて、他人とのつながりを持ちたくなるのだろうか。「そうした気持ちはあると思います」と話すのは、人気ラジオ番組のディレクター経験も長い、ニッポン放送ビジネス開発局長の節丸雅矛(せつまる・まさむ)氏だ。

 節丸さんは「音」について、「感性に訴えて、温かく柔らかく、人の記憶に残る優れたメディア」と語る。「深夜のラジオの生放送で、『俺と同じで、世界のどこかに今、起きて聞いている人がいるんだ』と思うだけで心強くなったり、ふと安心したりするような体験は、多くの人が根源的に持っているのでは」

 そもそも音のサービスでラジオは、SNSとは比べ物にならない長い歴史を持つ。「耳から入ってくる音には映像がないのだから、聴きながら想像をしないといけない。想像力をたくましくするから、印象にも残る」と指摘。これが、「記録よりも記憶に残るメディア」とされるラジオの強みだろう。耳から入ってくる他者とのつながりが、音声SNSという形となって多くの人に受け入れられている。

“ながら”の利点

 仕事や趣味など、他のことをしながらでも耳から情報が入ってくるという利点を強調するのは、音響工学やサウンドデザインなどを専門にする、広島市立大学情報科学研究科の石光俊介(いしみつ・しゅんすけ)教授だ。石光教授はアマゾンのオーディオブックサービス「Audible(オーディブル)」を愛用し、通勤中の自動車内で耳を傾けているという。

 「今は(人類に関する歴史書の)『サピエンス全史』を聞いているが、文字で読んでいたら途中で飽きて、“積ん読”になっていたかもしれない。でも、オーディブルで音声で聞くならとりあえず流しておけばいいし、これまで手が届きにくかったジャンルに触れやすくなった」と話す。

 この感覚は、音声SNSについても言えることだという。「気になるテーマに出合って、興味があればさらに(他のことをやりながらでも)耳の注意はそちらに向けられるのではないか」と指摘する。

 「『ソニックトリガー』(音の引き金)という言葉がある。何かを思い出すきっかけ、契機になる音という意味だ。記憶に基づいてそこに寄り添う音声や楽曲を流すと、ターゲットとする顧客をつかみやすくなるということで、音を使った『サウンドマーケティング』などで用いられる」と説明する。

 石光教授によると、音が耳に入ってくることの効用は、こんな「実用性」ばかりではない。「昔のよい思い出に結びつく音声や楽曲は、その人にとって『温かさ』のトリガーとなるもの。コロナ禍などで気がめいっている人は、そうした音や曲を聞くことも、気晴らしのひとつの手かもしれない」と話す。

 アプリの「Calm(カーム)」のように、小川のせせらぎや小鳥のさえずりなどの音を聞かせるサービスもある。良質な睡眠のための大人向けの読み聞かせや、リラクセーションや睡眠、集中力を促進する音楽もあり、癒やしのアプリとして人気だという。

リアルタイム通訳で

 コロナ禍で「音」への関心がいっそう高まってきていたところに、米国から上陸し、注目を浴びたクラブハウス。発展の初期段階ともいえる音声SNSはこの先、どう進んでいくのだろうか。

 ニッポン放送の節丸さんは、今後の展望について、「多言語化と翻訳」をキーワードに挙げる。「テキストベースでは、グーグル翻訳などすでに実用的な技術があるが、音声ではまだこれから。日本語でしゃべると、聞く側では英語で出てくるなど、多言語化と翻訳の正確性を上げていけばどうだろう。例えば、ビートルズに関する意見交換で、世界の人とつながっていく。そういうSNSも出てくるのではないか」と予測する。

 癒やしも交流も、「音」を使ったサービスは今後ますます勢いを増しそうだ。

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ