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【痛みを知る】ガマンの上限は心理状態次第 まっすぐ向き合うのはダメ

 いったいどのような人が“痛がり”なのか、考えてみたい。まずは年齢別に「大人と子供はどちらが痛がりか」との問題から始めよう。

 結論から言うと、一般的には高齢者よりも若年の人が痛がりとする研究報告がある。しかし、一方で65歳以上の人は、痛みに対する感受性が鈍くなることが知られている。だからといって「じゃあ手術の際に、65歳以上の患者さんには麻酔は必要ない」「外来での鎮痛処置もいらない」などと早合点する医師はまずいないので、ご心配には及ばない。

 では「男性と女性、どちらが痛がりか」についてはどうだろう。多くの研究では、女性のほうが痛がりとの結果が出ている。確かに私の外来を受診される患者さんの男女比は1:2で、明らかに女性が多い。その理由ははっきりしないが、「痛みをより早く認知する(感受性が高い)人が神経機能が優れている」と仮定するならば、男性よりも女性の体が完成されているともいえる(?)。

 しかし、出産の際の激烈な痛みに耐えることが可能な女性を、「男性よりも痛がりだ」と決めつけるのはいかがなものだろう。

 職業別にみると、オフィスで机に向かっているビジネスマンやOLは痛みに対する抵抗力が弱く、少しの刺激であっても痛みとして認知してしまうと考えられている。一方、農業や漁業に従事されている方は、常に種々の刺激にさらされていることから、抵抗力が強いのだ。

 第二次世界大戦中、ドイツ軍の猛反撃により、米英連合軍が甚大な損害を受けたイタリア戦線に軍医として従軍したビーチャー(後のハーバード大学麻酔科教授)は、負傷した兵士150人と、同等の傷を負った一般市民150人との比較を行った。その結果、病院で麻酔薬による鎮痛処置を必要としたのは兵士32%に対して、一般市民では83%と高率であった、という。

 同等の傷であっても、おのおのが感じている痛みの強さに大きな違いが生じたことから、痛みの感じ方は傷の程度に比例しないことが判明した。つまり、一般市民は受傷によって、その後の生活に対する不安や恐怖心が生じ、痛みが増幅したのだと結論できる。

 なお、痛みには痛みを感じ始める下限(感受性)と、もうこれ以上は我慢できないとする上限(抵抗力)とがある。一般的に下限は過去の経験や現在の生活環境に大きく左右され、上限は心理状態によって変化すると考えられているのだ。

 「痛みとは真っすぐに向き合うべきでない」

 私がいつも患者さんにこう説明させていただいている。痛みとうまく付き合うには、「痛みが存在する部位に意識を集中せずに、他のことを考えてのほほんと過ごすこと、何よりも恐怖心や不安を捨て去ること」が肝要である。(毎月第1日曜日に掲載)

 【略歴】森本昌宏(もりもと・まさひろ) 大阪なんばクリニック本部長。平成元年、大阪医科大学大学院修了。同大講師などを経て、22年から近畿大学医学部麻酔科教授。31年4月から現職。医学博士。日本ペインクリニック学会名誉会員。 

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