【日本語メモ】「づ」と「ず」の使い分け
先日、校閲中の記事に「初動つまづき重く」という見出しが出てきました。弊紙の用字用語集「産経ハンドブック」にのっとり、「つまずき」で赤字を出しました。漢字の「躓き」は常用漢字でないこともあり、弊紙では平仮名で表記を統一することになっています。
赤字を出した後、ふと気になって「つまずく」と「つまづく」をパソコンで漢字変換してみたところ、どちらも同じ漢字の「躓く」が変換結果で出ました。一般的には「ず」を用いた表記が正しいように思えますが、なぜ「づ」の表記でも変換できたのでしょうか。
国語辞典の『大辞林』(三省堂)を引くと、「現代仮名遣いでは『つまづく』のように『づ』を用いて書くこともできる」との記述があります。現代仮名遣いとは、現代語の音韻に従って書き表すことを原則とした仮名遣いのことを言います。 現代仮名遣いより前は歴史的仮名遣いが用いられており、昭和21年に「現代かなづかい」が公布されるまでは歴史的仮名遣いが公的なものとなっていました。
文化庁HPによると、基本的に単語に「づ」を使うパターンは2つあり、(1)同音の連呼によって生じた場合と(2)二語の連合によって生じた場合に分けられます。
例として、それぞれ下記の単語が挙げられます。
(1) の場合
つづみ(鼓)、つづく(続く)、つづる(綴る)
(2) の場合
みかづき(三日月)、たけづつ(竹筒)、たづな(手綱)
「つまずく」の語源は「爪突く」といわれています。上記の原則にのっとると「爪+突く」で(2)に該当し、「つまづく」が正しいように思えますが、現代では「躓く」の漢字が一般的に用いられており、上記(1)(2)の原則は適用されません。
また、現代仮名遣いは従来の表記の慣習を尊重して一定の特例が設けられています。二語に分解しにくいものは、それぞれ「ず」を用いて書くことを原則とし、「づ」を用いて書くこともできるとされています。「せかいじゅう(世界中)」「いなずま(稲妻)」などが例として挙げられ、「つまずく」もこれに該当します。そのため、「つまずく」「つまづく」のどちらでも「躓く」で漢字変換ができる訳です。
ちなみに、他にも例外はあり、「ずが(図画)」や「りゃくず(略図)」など、漢字の音読みでもともと濁っているものは「ず」を用いて書くこととされています。
普段の校閲作業ではこのような原則まで把握しておく必要はありませんが、言葉を扱う仕事に携わる上で、言葉に関する不明点はなるべく解消しつつ業務に取り組んでいく姿勢を忘れずにいたいものですね。
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