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【ダニーの食読草紙】剣一筋、人間性も薫る  

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 年が改まり、連載も心機一転のスタートとなった。棋士の食事などをテーマにした「棋食徒然」から趣向を変え、今回から小説などの食事描写について書かせていただく。タイトルは「食読草紙」。読者諸賢には、いましばしお付き合い願いたい。

 対局中の棋士の食事が「将棋めし」として注目を集めるなど、本邦では人々の食文化に対する関心が高い。それもあってか、最近、食をテーマにした小説や漫画が数多く出版されている。こうした作品が人気を集めるのは、古今東西、食にまつわる場面描写の蓄積によるところが大きいだろう。

 小説の食事描写については、まず時代小説の名手、池波正太郎(1923~1990年)を抜きにして語ることはできない。ご本人も食道楽として有名だが、『鬼平犯科帳』や『仕掛人・藤枝梅安』など手掛けた小説にも多くの食事場面が出てくることで知られる。その描写は美味しそうな食事そのものに注目するだけではなく、登場人物がどういったものを食べるのかを描くことで、その人物の人間性や日常を浮き彫りにし、読者に強く印象づけている。

 たとえば、代表作の一つである『剣客商売』第1巻では、主人公の秋山小兵衛と大治郎親子の性格面の相違がまさに普段の食事によって表現されている。父親である59歳の小兵衛は、年の功とでもいうべきか、人付き合いも良く洒脱で、自ら鯉を捌き、吸物も誂えるなど豊かな食生活を送る。対して、剣の道一本に生きる24歳の息子、大治郎は朝食も夕食も根深汁(ネギの味噌汁)と大根の漬物で麦飯を食べるという生活である。当時の視点でもおそらく質素な食事だが、大治郎が非常にうれしそうにいただくため、読んでいるうちに美味しそうな根深汁の香りまで漂ってくるように感じる。

 小説の登場人物と食事でつながることで、より作品の世界に没入できるのは、気のせいではないと思うのだ。

 将棋棋士の糸谷哲郎八段が、物語の中の「食」を通して、作品をより深く楽しめる“隠し味”を紹介します。

■いとだに・てつろう

 昭和63年、広島市生まれ。森信雄七段門下。平成18年にプロとなり、同年の新人王戦優勝。大阪大学文学部卒業、同大学院修士課程修了。ドイツの哲学者・ハイデッガーを研究。26年に初タイトルの竜王獲得。現在、トップ棋士10人だけが入れる順位戦A級に在籍し、2月開幕のタイトル戦・棋王戦の挑戦者に決まっている。「ダニー」の愛称で親しまれ、棋士会副会長を務める。

 将棋と出あった5歳の頃には、すでに漢字も読める読書家だった。将棋は早見え早指しで知られるが、本を読むのも速く、東京に移動する新幹線の中で文庫本を複数冊読み切るという。

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