「悩むアラサー女子は健全よ」…壇蜜さん、深刻なお悩み相談を「人生読本」に昇華
タレントの壇蜜さん(40)が、同世代女性の悩み相談にこたえた内容をまとめた「三十路女は分が悪い」(中央公論新社)を刊行した。恋愛、結婚、仕事や将来…。相談者それぞれの悩みに、「暗黒時代」と自虐する自身の経験をさらけだして回答。1人でも多くの女性の救いとなるようアドバイスした。
トリッキー担当
Webサイトのお悩み相談アドバイザー(回答者)を依頼されたのが平成29年のこと。元厚生労働次官の村木厚子さんら4人いる回答者の1人だった。
「ほかの方が日輪刀とか小太刀とかを武器に使うなか、ひとり(遠くまで届く)鎖鎌で立ち向かうような…。他の回答者のようにキャリアップで職を変わったわけでなく、職場になじめず仕事が長く続かなかった。奇をてらった役割、トリッキー担当なら私でもアリかと、引き受けました」
物事を、正面からわずかにずらして見ることを得意とするだけに、回答はユニークだ。
20代女性を飲みに誘う40代夫が信じられない-との相談に「若い子が好きねぇ。そんなにいいのか私も試してみようかしら」とヒヤリとさせる言葉を投げかけてみてはと助言。職場仲間が悪口で盛り上がるのに嫌気がさし、1人で昼食を取るようになったが孤独だ-との相談には「結んだ口の内側に、美しさはたまっていく」と支える。
和菓子職人、ホステス、遺体衛生保全士とつながりがなさそうな職を転々とした20代のころ、誰かに真剣に相談したことはないという。流れに身を任せたり、自分で考え抜いたりして、進路を選んできた。その経験から、「今の状態ならAだけど、条件が違ってくればBというように、相談者が変わらないといけない-という回答を提示したこともある」と明かす。
ほんのり変える
幼少の頃から読書好き。読むばかりではなく、芸能界で活動し始めてからは夕刊フジに長くエッセーを連載するほか、多くの書籍を出してきた。致命傷にはいたらない毒を含んだ言葉で、ときにクスリと笑わせる流麗な文章は、深刻なお悩み相談を人生読本に昇華させた。
回答のなかに、《環境をほんのり変えることをおすすめします》というものがある。“ちょっと”でも“少し”でもなく、場違いな“ほんのり”の表現が、相談者の苦しさをほんのり解消する役割を果たす。
「和菓子工場で桜餅を作っていたとき、食紅の量が多すぎてピンクが強い餅をつくって工場長によく叱られた。“ちょっと足りないくらいがちょうどいい。ほんのりピンクが食べたいんだよ”と。あきらめずに教えてくれたな」。つらかった経験も、ときがたてば書籍の題材だ。
29歳でグラビアデビューし芸能界に入り10年余り。タレント業がこれまでで最も長く続く職業になった。その秘訣は「壇蜜という着ぐるみをきて仕事をし、帰宅すると脱いでクローゼットにかけること」という。あらぬ批判を受けても、それは芸名である壇蜜が受けていることと受け流す。「心にコスプレをまとうことで、ストレスがなくなる」と推奨する。
四十にして惑わず?
相談を受け始めたときは独身の立場で回答していたが令和元年、漫画家の清野とおる氏と結婚。そして昨年12月、四十路を迎えるなど環境はかわった。四十にして惑わず…か。
「悩みは、多忙なときには頭をかすめないもの。20代までは自分のことで精いっぱい。30代になると事務所の人がいて、配偶者や(実家の)家族がいてと、考える(対象の)登場人物が増えて悩むことは増える。ただ、要所要所で悩んでいる30代のほうが健全かも。悩まないのは、自分と向きあうことを先送りしている状況だと思うので」
夫である清野さんとは、仕事面も含め詳細な将来設計を立てていないという。「細かい目標を立てると、それによって苦しむタイプ。2人とも目標にむかって突き進む性格ではないので、トラブルを避けながら安全運転でやっていこうと話しています」
本来、相談ごとは1対1の秘密のもの。それが新聞や雑誌、WEbなどで著名人に答えてもらう場合、匿名とはいえ内容公表が前提になる。Webで回答し一段落したのち、さらに書籍化したことについて担当編集者は「壇蜜さん自身も公私で変化があった。質問者(30代女性)と近い世代のうちに回答したものをまとめることに、意味があると感じた」と説明する。
コロナ禍で、立場が弱い非正規雇用の女性たちからの相談は、後を絶たない。
「壇蜜のような女でもなんとかなったのなら、大丈夫そうだ-と思ってもらえたら」と、トリッキー担当の回答者を続けていく。(文化部 伊藤洋一)