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外国人襲撃で城乗っ取りも計画…NHK大河ドラマの主人公、渋沢栄一自伝「雨夜譚」を読む

渋沢栄一の波瀾万丈の生涯を記した自伝「雨夜譚」
渋沢栄一の波瀾万丈の生涯を記した自伝「雨夜譚」

 幕末から昭和初期にかけて官界や実業界などで活躍し、令和6(2024)年に一万円札の肖像画として登場する実業家、渋沢栄一(1840~1931年)。今年2月14日スタートのNHK大河ドラマ「青天を衝(つ)け」の主人公にもなり、関連書籍の発刊も相次ぐ。その基礎文献の一つが渋沢の自伝「雨夜譚(あまよがたり)」(岩波文庫、長幸男校注)だ。昭和59年発行で現在16刷、累計発行部数は5万部と根強い人気がある。読みどころの一つは、のちに大実業家となる渋沢の若かりし頃の挫折だ。

城の乗っ取りも計画

 「日本資本主義の父」と称される渋沢は91年の生涯で近代日本を牽引した大企業など約500社の設立などに関わり、福祉や教育分野でも大きな足跡を残した。「雨夜譚」は40代後半の渋沢が、子弟の求めに応じ故郷の埼玉・深谷で過ごした幼少期から明治6(1873)年の大蔵省退官までの経歴を語ったものだ。生涯をカバーする自伝というよりは、半生記といえるが、面白さが減るわけではない。農家出身の名もない青年が激動の幕末・維新期に翻弄されながらも、官尊民卑の風潮に反発し、国難打破・公益増進を目標に掲げ、持ち前の勤勉さと現実主義的思考で人生を切り開いていく爽快なストーリーとなっている。

 とりわけ興味を引くのが、幕末の外国人襲撃計画とそれが頓挫する経緯だ。子供の頃から漢籍に親しみ、頭脳明晰だったとされる渋沢は、成長とともに交流を広げ、幕末の多くの志士たちと同じように攘夷思想に染まる。攘夷を断行するにはまずは軍備を整える必要があると考え、そこで練り上げたのが、守りの手薄な高崎城を乗っ取って城の兵器を調達し、しかる後に横浜の外国人居留地の焼き討ちをするという大規模な計画だ。親族や仲間約70人が関与し、武器も調達して決行直前までいくが、内外情勢に詳しい従兄からストップがかかる。攘夷派が劣勢になっている現状で決行しても、百姓一揆程度とみなされ、すぐに鎮圧され犬死にするだけ-というのがその理由だ。

 しかし、渋沢ら決行賛成派も負けてはいない。「今日幕府を亡ぼす端緒を開くためにその血祭りとなることなら、我々の本分に足る」として主戦論を堅持。激論は平行線をたどり、最後は刺し違えても「中止」「決行」のそれぞれの立場を貫くまでにエスカレートした。

「すこぶる無謀」

 そこで渋沢もやっと冷静になり、激論を振り返りながらこう判断するに至る。

 「ただ死を以てするといった所が百姓一揆同様に見做されて、この連中の重立った者が幕府の獄吏に辱められて、空しく刑場の露と消ゆる事になると、ただ初めの目的に届かぬばかりでなく世間においては児戯に類した挙動だなどと評判されまいものでもない」

 当初意図した倒幕の目的から遠のくばかりか、自分たちの死が無駄になる、と結論づけたのだ。渋沢は当時の決心を「すこぶる無謀」だったと認めている。

 襲撃計画を実行すれば、幕府側に鎮圧、処刑された公算が大きい。実際、渋沢も同書で「自分らの首は(中略)飛んでしまったであろう」と回顧している。

 相手の言い分も吟味し、最終的に決行を撤回したことから、渋沢のその後の人生はダイナミックに回り始める。一時浪人となるが、人材を求めていた徳川御三家の一つである一橋家側から声がかかって家来となり、慶喜の弟・昭武とともに渡仏、維新後に帰国。明治政府から推挙され、政府の役人に。国家予算をめぐる意見の食い違いから役人生活と決別するが、民間に転じて以降は実業界で八面六臂(はちめんろっぴ)の活躍をみせる。

大実業家の萌芽

 本書は渋沢が大実業家として飛躍するまでの「前史」の位置づけだが、外国人襲撃計画の中止に至る中でみせた情報収集と冷静な分析、現実的で総合的な判断などには、その後企業人、組織人として大成する渋沢の“原型”をみることもできそうだ。

 「渋沢栄一-日本のインフラを創った民間経済の巨人」(ちくま新書)などの著書がある木村昌人関西大客員教授は同書で「徹夜の熟議を経て、参加者が全員納得して決断したという決め方は、後に渋沢が株主総会の運営で、株主との議論を重視した方法の萌芽(ほうが)を感じさせる」と指摘している。

 「新たな産業の育成、女性活躍、科学技術の発展など現代にも通じる諸課題に尽力した人物だ」。麻生太郎財務相は平成31年4月の記者会見で、新一万円札への渋沢の肖像画選定理由をこう説明した。

 そうした広範な分野で日本社会の基盤作りにエネルギーを注ぎ続けた渋沢。その人生の数々の岐路でみせた現実主義的判断は、現代人にとっても十分参考となるはずだ。  (文化部 花房壮)

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