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【ザ・インタビュー】祟り忘れた社会の欠陥 いとうせいこうさん『夢七日 夜を昼の國』

幅広い活動のなかで、小説の執筆は「自分との対話」と語るいとうせいこうさん(所属事務所提供)
幅広い活動のなかで、小説の執筆は「自分との対話」と語るいとうせいこうさん(所属事務所提供)
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 活字、音楽、テレビ、舞台など、幅広い分野で活躍する作家、クリエーターのいとうせいこうさん(59)。文芸誌「文学界」に掲載された中編小説2本を収録した新刊は、現代社会が抱える課題に対峙した作品だ。意図しないまま、登場人物に導かれるようにして書き進めたという。

 『夢七日』は、いとうさんが昨年秋につづった1週間分の日記をもとにして生まれた。「私小説のようだけど、読み進めると、まるで違うフィクションになっている。そういうものを作りたかった」。日常や国内外で実際に起きた出来事を織り交ぜながら、フィクションに仕立てるために選んだ手法が「夢の中で夢を見る」という設定だった。

 「当初、夢を見ているのは『私』という設定にしていたが、それではうまくいかなかった。途中で夢を見ているのは『君』にして、『私』が語りかける形にしたら、小説としての面白さがぐーんと上がって…」。その「君」とは、平成25年に刊行した『想像ラジオ』(河出書房新社)に登場した「木村宙太」が突如浮かんできたという。

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 『想像ラジオ』は累計30万部を超えるベストセラーとなった代表作。東日本大震災の津波で木の上に流された男がDJを名乗り、想像力でつながるラジオ放送を始めるという物語だ。宙太は被災地に赴いたボランティアとして登場する。

 『夢七日』に出てくる宙太は原発作業員として働いた後、交通事故で意識不明に。宙太から先生と慕われていた「私」は、眠り続ける宙太の側で日々の出来事や思いを語り続け、宙太のみる夢に反映されていく。

 本作を『想像ラジオ』のスピンオフと位置づけたくもなるが、いとうさんは「書き始めたときは木村の『き』の字もなかった」と話す。来年が東日本大震災から10年の節目であることも意識していなかった。

 だが宙太によって、物語は福島とも密接になった。いとうさんは震災後、幾度となく被災地に赴き、取材を続けている。

 「これまでどこにも書いてこなかったJヴィレッジの原発作業員の姿が、あふれるように思い出されて…。分かりました、皆さんのことを書きます! という気持ちになりました」

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 物語で描かれる1週間は、宙太とその家族にとって、命をめぐる7日間でもある。なかでも宙太の妻が凍結した受精卵を胎内に戻す過程の描写が詳細だ。

 「うちの家庭も不妊治療をしていました。子供を持ちたい人々の一生懸命な気持ちも分かるし、最新科学と生命倫理の問題についても書き留めておきたかった。そういうエッセー的なものを入れてもいいのが、私小説のひとつの自由さであり、いいところ。今回のようにアイデアが浮かぶかどうかわからないが、今後も私小説のようなものは、ありかな」 

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 もう一作の『夜を昼の國』は、人形浄瑠璃や歌舞伎で上演される「お染久松物」を題材とした物語。古典芸能の観劇を長年続けるいとうさんは、江戸時代に実際に起きた心中事件が、違う作者の手で何度も脚色されながら伝えられていることを、現代のインターネット上にあふれる誹謗中傷と重ね合わせる。

 近松門左衛門や鶴屋南北などの膨大な古典資料を読み込みながら、並行して書き進め、「僕の意図とは別に、お染と久松が僕に書かせたような感覚だった」。

 コロナ差別などに表れる現代日本人の倫理観の欠如について「祟(たた)りへの畏れがなくなったからではないか」と指摘するいとうさん。「これはよくない、やめておこうと人々に思わせる機能を小説が失ってしまったことに、以前から残念な思いがあった。文学の目的が、そういった社会的なものであってもいいと思うんです。この作品で、はびこる誹謗中傷に一矢でも報いることができたんじゃないかな」

3つのQ

Q子供たちの想像力を育むためには何をすべきか?

おしくらまんじゅう。体のぶつかり合い、押し合いが失われていることは残念

Q紅葉の季節におすすめの寺院は?

どんな寺でもいいので、イチョウを気にして見てみると、よい木は多く、歴史にも思いをはせられる

Q過去や未来に行けたら何時代で何をしたい?

原始時代の(フランスの)ラスコー洞窟などで、彼らの芸術の始まりを感じたい

(文化部 篠原那美)

 いとう・せいこう 昭和36年、東京都生まれ。63年、小説『ノーライフキング』で作家デビュー。平成11年、『ボタニカル・ライフ』で第15回講談社エッセイ賞。25年、『想像ラジオ』で第35回野間文芸新人賞を受賞。小説に『存在しない小説』『鼻に挟み撃ち』『我々の恋愛』『どんぶらこ』『小説禁止令に賛同する』、エッセイに『「国境なき医師団」を見に行く』など多数。

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