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【ザ・インタビュー】人生に「失敗」なんてない 演出家・宮本亞門『上を向いて生きる』

宮本亜門さん
宮本亜門さん
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 ここまで書いちゃって大丈夫なのか? テレビで見かける爽やかな笑顔を思い浮かべながらちょっと心配になった。

 昨年4月、前立腺がんが見つかり手術で切除。その影響が男性機能にも…。《退院して、家に帰り…ベッドでリラックス。ふと、パンツの中を見て驚きました。うわあ…》(本書から)

 「前立腺がんは最近とても増えているけれど、下半身に関わる部位だけに、ちょっと口にしづらい。誰にも話せなくてつらい思いをしている人もいます。だから僕がおもしろおかしく笑い飛ばすかのように書くことで、怖がらずに実情を知ってほしいと思いました。『なーんだそうだったのか』とね」

 ただ、がんが見つかった当初は、とても“笑い飛ばせる”ような心境ではなかった。真っ暗な宇宙に、ひとりほうり出されたかのような恐怖と不安。余命はどれくらいか? 仕事はどうなる? 男の『身体』か『精神』か? 治療や手術についても悩み、調べ抜いた。

 「何しろ突然でしたから。がんについては勝手に『80歳くらいになって、ひょっとしたらかかるかも』という認識でした。ステージ(IIIに近いIIギリギリだった)が分かるまでが一番不安でしたね。結果を聞いてやっと生きられるかも、仕事もできるかもしれない、って」

 前立腺がんは早期発見であれば、10年後生存率は「100%に近い」という。手術から約1年半たった今、予後は極めて順調だ。転移もない。

 「僕は何か悪いことをして、がんになったのじゃないし、起きてしまった事実を隠してもしようがない。ならば、『人生にはこういうこともあるんですよ』と、明るく語った方がいいじゃないですか」

 病後、再スタートの意味を込めて名前の字を「亜」→「亞」に変えた。

■   □   ■

 演出家として「東洋人初の快挙」の称号や、世界でのジャンルを超えた華々しい活躍ぶりからは、青少年時代の暗い影を想像することは難しい。中学で自殺未遂、高校生のときは学校生活になじめなくて1年近くも自室に引きこもった。

 「弱かった。苦しみしか思い出せません。学校でいじめられているわけでもないのに、毎日起きるのがつらい、学校へ行けない…。僕は『フツー』ができなかったのです。皆が楽しい、面白いことが分からない。次第に“演じる”ようになる。そんな自分がイヤで疲れ果ててしまう」

 苦しみから抜け出せたのは「演劇の面白さ」と出合うことができたからだ。

 「夢中になれることを見つけること。仕事じゃなくて趣味でも構わない。つらい経験や過去も『心の筋肉』を強くしてくれます。人生に“失敗”なんてない。いくつになっても、やり直しはできるはずです」

 ■   □   ■

 年初来の新型コロナ禍によって、予定されていた舞台やイベントはことごとく中止。数カ月間も「無収入」に陥った。その最中の今年4月、YouTubeで、さまざまな人たちが世界的な名曲「上を向いて歩こう」(永六輔作詞、中村八大作曲)を歌や踊りでつないでゆくプロジェクトを立ち上げる。

 つらい今だからこそ、上を向こう。差別、偏見をなくし、笑顔や希望を忘れない…こうしたメッセージは圧倒的な支持を得た。「苦しい状況が続くけれど、心まで折れてほしくない。ならば僕に何ができるのか、って考えたのです」

 新型コロナ禍は依然、収束が見えない。先行き不透明な状況の中で、手探りながらようやく、舞台なども再開されつつある。

 「苦しいけれど、大事なのは気持ちの持ちよう。プラスにするかマイナスか、ですよ。コロナ禍も行き過ぎた資本主義や金銭至上主義にブレーキをかけるきっかけになるかもしれない。人間にとって何が大切なのか? 再認識させてくれるような気がします」

3つのQ

Q最近面白かった本は?

『揺れる奄美、その光と陰』(稲野慎著、南方新社)。がん患者らが末期に帰宅して家族に「ありがとう」と言って穏やかに亡くなる姿に感動しました

Q60代はどんな時代?

身体も精神も大きく変わる時代。「これから面白くなるぞ」と人生の第3幕にワクワクしています

Q現代の若者たちを見て

情報があまりにも多過ぎてかわいそう。情報の洪水の中でコミュニケーションができなくなったり、怖くなる人も多い

(喜多由浩)

     

 みやもと・あもん 演出家。昭和33年、東京都出身。62年、ミュージカル「アイ・ガット・マーマン」で演出家デビュー。平成16年、米ニューヨークのオン・ブロードウェーで東洋人初の演出家として「太平洋序曲」を手掛け、トニー賞4部門にノミネート。ミュージカル、オペラ、歌舞伎など幅広いジャンルで活躍。12月7日からは東京・渋谷のPARCO劇場で東山紀之主演の舞台『チョコレートドーナツ』を上演予定。

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