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「ネット視聴料」徴収への布石か NHK、テレビ設置届け出義務化などを急ぐ理由とは

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 NHKが、受信料確保のため強硬な案を打ち出している。テレビ設置の有無を届け出るよう義務付け、未契約者らの氏名などの個人情報を照会できる制度の導入を求めるものだ。「拙速ではないか」「世論の動向を見る観測気球だ」。さまざまな見方があるものの、将来的にインターネットでの視聴でも受信料を徴収するという大目標へ向けた布石の一つ、との見方が有力だ。(文化部 森本昌彦)

相次ぐ慎重論

 「テレビの未設置者に一方的に不利益を与えることにならないか」

 NHKの在り方を検討する総務省の有識者会議分科会。NHKの要望に識者の一人は疑問を投げかけた。

 NHKの求める放送受信設備設置の申告義務化は、テレビを買った人に加え、持っていない人まで「保有していない」とNHKに報告する内容となっている。

 現状の放送法64条は、テレビなどNHKの放送を受信できる設備を設置した人は「契約をしなければならない」と規定し、未設置者には触れていない。分科会の出席者の一人からは、「未設置の届け出を課するというのは法的には整合しないのではないか」との指摘が当然あったが、NHKの要望はこの放送法を変更したい-というものだ。個人情報の照会についても別の出席者から、「個人情報の侵害に当たらないのかなどについて、(NHKの要望では)十分な検討ができない」と、さらに詳細な説明を求める意見が出た。

ネット視聴からの徴収

 NHKの受信料は衛星契約(地上契約含む)で月額2170円(口座・クレジット払い)だ。年間2万6千円(前払いは2万4185円)を超え、あらゆる世代にとって小さくない負担となっている。

 内容の違いなどから単純な比較は難しいが、配信で人気のネットフリックス(ネトフリ)は、最も安いスタンダードプランで月額税込み880円。FODプレミアムは同976円、アマゾンプライム(アマプラ)なら同500円で、映画やドラマなど数万本とされるラインアップを好きなときに見られる。

 令和元年度の受信料収入は7115億円に上り、徴収率も年々上昇。民放キー局トップの日本テレビの売上高は3072億円で、NHKの半分以下にとどまる。潤沢な財源を誇るNHKがなぜ今、強硬ともいえる要望を出してきたのか。

 「今の若い人はほとんどNHKを見ていない。つまり、時代が経過するにつれて受信料を払ってくれない層が増えることになる。その意味での危機感が強いのだろう」と語るのは、立教大の砂川浩慶教授(メディア論)だ。

 実際、東京・大手町の会社員(28)はこう話す。「ニュース関係は全てネットで。エンタメ系は民放各局の無料配信、ネトフリ、アマプラ、YouTube。これで一切不自由しない」。特に若い世代では、こうした生活様式でテレビを全く見ない人は珍しくなくなっている。

 砂川教授は、こうした実態も踏まえた上で、今回の要望について「NHKは将来的に、インターネットをテレビやラジオと同じ『本来業務』にして、ドイツのようにパソコン、スマートフォンなど全世帯の情報機器から受信料を取りたいと考えている」と解説する。

 ネット業務は、現状では放送を補完する「任意業務」。それ単独で受信料が徴収できる仕組みにはなっていない。「今回の要望はその大目標に向けた布石ではないか」。いわば世論を見る観測気球だ。「一見乱暴なアイデアでも、出して『駄目』といわれたら、逆にもっと大きな制度改正を突きつけるところまで考えているのではないか」。砂川教授はこう指摘した。

前田会長のキャラクター

 今年1月に前田晃伸(てるのぶ)氏が会長に就任し、テレビ設置届け出義務化案のほかにも、ネット業務費の上限撤廃案を表明するなど、大きな動きが相次いでいる。

 「ちょっと力が入り過ぎかな。もう少し慎重にやったらいいんじゃないの、とも思う」と話すのはNHKの元幹部。歴代の会長が、受信料などについて議論がありながら、自制していた部分があったことを踏まえての感想だ。

 三井物産出身の籾井勝人(もみい・かつと)氏、三菱商事出身の上田良一氏と2代続けての商社マンから、前田氏はみずほ出身のバンカー。その点を捉えて別のNHK関係者は、「経営数字の話とか合理化とか、経験上そちらの方向に力点がいくのだろう。周囲の部下にも厳しいようだ」と漏らした。

 ただ、最近のNHKの動きを、前田氏のキャラクターだけに帰するのは適切ではない。NHKはもう何年も前から、ネットへの注力を強めている。

 平成27~29年の経営計画で<“公共メディア”への進化を見据えて>と明記。29年には、有識者でつくる会長の諮問機関が、テレビ放送を同時にネットでも流す「常時同時配信」が実現した場合、テレビを持たずネットだけで視聴する世帯から新たな受信料を徴収することに「合理性がある」との考えをまとめ、当時の上田会長に答申した。

 今年春には同時配信をスタート。令和3年度以降の「ネット実施基準」の素案では、民業圧迫の懸念に配慮し、ネットにかける費用を受信料収入の2・5%以内としてきた上限の撤廃案を打ち出している。

 受信料とネットをめぐる動きに加速度がついている状況の中で、NHKの在り方をめぐる本質的議論は進んでいない。どのような番組を国民・視聴者に提供すべきかを定義したうえで、必要な事業規模を考えるべきだが、総務省の有識者検討会の分科会でも突っ込んだ話し合いは見られない。

 砂川教授は「NHKの番組が受信料を払うに値するのか、まずそれを議論する必要がある」と話している。

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