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「万葉集」英訳で日本の精神を世界へ 令和の時代に高まる意義 

「万葉集」の英訳者、ピーター・マクミランさん
「万葉集」の英訳者、ピーター・マクミランさん
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 令和の時代に移行し、現存する日本最古の和歌集『万葉集』が元号の出典として注目された。そこには日本古来の民族としての精神が語り継がれ、日本人の精神を専門家による本格的な英訳で正しく世界に伝えることに期待が高まっている。ただ、全20巻で計4500首以上もあり、英訳作業は並大抵のことではない。事業への支援を模索しつつ、観光資源と結びつける工夫も凝らして動き始めた。

転機は新元号

 『万葉集』の英訳に取り組んでいるのは、アイルランド生まれで、日本文学研究家として知られるピーター・マクミランさん。母国で哲学の修士号、米国で英文学の博士号を取得し、英米の大学で研究員などをへて、東大非常勤講師などを務めている。

 日本では古典文学の英訳に取り組み、これまでに『百人一首』の英訳でドナルド・キーン日本文化センター日本文学特別賞などの日米の翻訳賞を受賞したほか、『伊勢物語』の英訳本も出版している。その次に英訳を考えていたのが『万葉集』だったが、その分量の多さが課題だった。

 転機となったのは、平成31年4月1日、新元号が「令和」と発表され、その出典が万葉集と伝えられたことだった。これに支えられてマクミランさんは100首を選んで、英訳に取り組み、令和元年12月に『英語で味わう万葉集』(文春新書)を発刊した。

 なぜ英訳なのか。マクミランさんは同著で、ある国の駐日大使から、「日本文学が素晴らしいものであれば、世界でもっと注目されているはずではないか」と指摘されたことに触れている。そのときに思いついた問題点の一つが、優れた翻訳の少ないことだった。

 「現代に至る日本文化の深層を知るのに極めて重要で、歌を通じて自らの思いを文字として記したところに日本文学の原初がある。後世に研究され、時代を超えた魅力を持つ世界的に重要な文芸だ。だが、定本と呼べる英訳がなく、存在すら知らない外国人が多い」

最良のコンテンツ

 一方で、日本人の精神が正しく世界に伝わっていないと思われる場面はいまもよくある。マクミランさんは「『万葉集』には古代の日本の文化、社会、生活が垣間見られ、人間と自然が一体化した生活や信仰が描かれている。日本人の精神性、日本文化の原風景が色濃く表れており、世界に日本文化の神髄を伝える最良のコンテンツ」と話す。

 世界に知られれば、海外の大学生が学ぶべき基礎的でユニバーサルな教養になるとも考えている。

 それだけではない。「日本人にも自らの文化を再認識する契機となり、国を愛し、自然を大切にする思いを強くすることにつながる。そうした日本文化を英語で世界に発信する能力を向上させる、新たな英語教育の教材としても活用できる」と期待する。

 しかし、全編英訳プロジェクトには政府も関心を寄せたものの、その後、コロナ禍に直面し、支援が得られるかは不透明な状況だ。全編の英訳には膨大な時間と労力、費用がかかる。ただ英語に置き換えるというだけではないからだ。

 例えば、ある和歌では、「しほ」(潮)という言葉に「四宝」という漢字が当てられており、潮の粒が宝石のように光り輝く光景が表現されている。これを単に「tide」(潮)と訳すだけでなく、「glittering」(輝いている)を補うことで、作者の心を正確に伝えることができるという。

費用は数億円?

 こうした精緻な読解に加え、作品の解説や背景、翻訳のポイントも記すことが望まれ、10人程度の専門家の継続的な協力が必要とされる。英訳する和歌の数からも費用は数億円に上る見通しで、関連作業も含めるとさらに膨らむとみられる。現在は、武蔵野大学文学部専任講師の茂野智大さんの協力もあり、現状の予算が許す範囲で作業を進めている。

 費用については、クラウドファンディングで集める方法に加え、多くの人に『万葉集』を実感してもらうため、地域の観光資源と結びつける手法が検討されている。地方創生の観点から財政的な支援も含め、地域と連携していく案だ。

 「『万葉集』は歌碑が全国に約2300基あり、一つの歌集としては最多。日本の歴史と文化に触れられる観光資源として、案内の充実、多言語化を図れば、旅の楽しみも増える。『万葉集の舞台、日本』として日本に外国人を呼び込められれば、コロナ禍後の地域活性化にもつながる」

 戦後75年といわれるが、その間、日本の精神を正しく世界に発信する努力は十分であっただろうか。「令和の時代こそ、『万葉集』を世界に発信する意義は高まっている」とマクミランさん。世界との交流や相互理解には常に文化的な側面が伴う。世界に真の日本を知ってもらうことに資することが求められる。(文化部 蔭山実)

万葉集 現存する日本最古の和歌集で、漢字で書かれている。7世紀半ば以降の約130年間の歌が収められ、その間に段階的に編纂(へんさん)されて現在の形になっていったと考えられる。作者は天皇をはじめとする皇族や貴族、役人が多いが、西国の警備にあたった防人やその家族、東国の人々の東歌など、幅広い階層の人々の作品が含まれている。

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