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【ザ・インタビュー】アニメ業界の熱源、リアルに 作家・塩田武士さん「デルタの羊」

「アニメに普段親しまない人にも楽しんでもらえる作品」を心掛けたと語る塩田武士さん(納冨康撮影)
「アニメに普段親しまない人にも楽しんでもらえる作品」を心掛けたと語る塩田武士さん(納冨康撮影)
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 気鋭の社会派作家が新作のテーマに選んだのは「アニメ業界」。<誰かが羊飼いにならなきゃ、日本アニメは地盤沈下していく>。生き残りをかけて戦う人々の姿と、アニメにかける情熱を描いた作品だ。なぜ日本のアニメが世界でも人気になったのか。理由の一端に触れることができる。

 「アニメの製作委員会って、めっちゃ悪いらしいですよ」。執筆のきっかけは、知人から聞いたこの種の話だったという。

 「もうけた金はどこに消えるのか。大物フィクサーや産業スパイなどの“巨悪”はいるのか…。アニメについては正直詳しくなかったのですが、小説家としてのアンテナが働きました」

 元新聞記者。執筆時の資料が段ボール数箱分に及ぶ綿密な取材で知られる。今回も20人以上の業界関係者に取材したが、話を聞くたびに混迷を深めた。なぜならフィクサーもスパイもおらず、製作委員会は巨悪でも何でもなかったからだ。

 「(小説の題材になる)悪人を探しに行ったのに、善人しかいなかった。『これではとても小説にならない…』と、取材帰りの新幹線で何度も絶望しました」

 それでも書こうと思ったのは、「会う人全員が例外なくアニメが大好きで、語りだしたら止まらなかった」からだという。「取材を重ねるうち、僕自身アニメにひかれていきました」

■ ■ ■

 物語はアニメプロデューサーの渡瀬智哉と、元警察官のアニメーター、文月隼人の2人を軸に展開する。

 渡瀬は自身の人生を変えたファンタジー小説のアニメ化に奔走するも、制作会社の買収問題から放送が危ぶまれることに。一方、文月の方も制作スタジオが想定外の事態に見舞われ、窮地に追い込まれる。生き残りをかけもがく姿は歴史小説や企業小説を連想させ、義理人情や憧れが「通貨」となる独特の世界は任侠(にんきょう)小説を読んでいるかのようだ。

 取材のリアリティーに裏打ちされた小気味良い会話と、読者を巧妙に翻弄する展開。読者は「こうくるか…」と唸(うな)らされるだろう。「情報量が多いので、構成で遊ばないとあかん、と思いまして」とニヤリ。その一方、複雑なアニメの作り方を分かりやすく描く。「アニメに普段親しまない人にも楽しんでもらえる作品」を心掛けたという。

 アニメ業界の内幕は決して順風満帆ではない。作画のデジタル化という時代の変化。制度疲労に陥る製作委員会。外資系動画配信という“黒船”…。

 「羊飼いと羊のいる世界」。取材協力者の一人が業界を例えたこの言葉が耳から離れなかった。好きなアニメがつくれるだけで幸せだとつい考えてしまう羊たち。本質を突いていると思った。

 「羊たちが生き残ろうとデルタ地帯に合流し、必死にもがく。今のアニメ業界の変化は人ごとではなく、自分たちの半径5メートル以内で起きていることなんです。僕の根本にあるのはリアリズム。人間を書き、社会を書きたい」

■ ■ ■

 記者時代には事件や芸能、将棋などを担当。グリコ・森永事件を題材にした『罪の声』をはじめ、社会派作品に定評がある。

 「ジャーナリズムなど社会派のテーマは僕の軸ですが、エンタメを書きたいという欲求も強い。だから今回、全然違う分野であるアニメを書けてよかった。多くの気づきも得ました」

 今後書きたいテーマは「新メディア」。新作に取り掛かるたび、「自分がこの小説を書く意味」を問い直すという。

 「言語化に対する執念が途切れたら(作家は)終わり。自分はなぜ最もシンプルな武器である活字を武器にするのか。それは一番情報を収録できて、深いところまで読者を連れていけるからです。常に問い直し、筋を通していきたい」

3つのQ

Q記者時代の思い出は?

記者1年生のとき、デスクから「本当にやりたい仕事があったら自分で環境を整えろ」と言われたこと。作家になってからもこの言葉を大切にしています

Q最近好きなアニメは?

「進撃の巨人」「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」「鬼滅の刃」…。内容が深く、(作画が)きれいな作品が好きです

Q気晴らしの方法は?

先日の産経新聞でヒューリック杯棋聖戦の観戦記を書いた後、奮発して新しい駒を買いました。それで羽生善治九段の棋譜を並べるのが気晴らしです

(文化部 本間英士)

     

 しおた・たけし 昭和54年、兵庫県生まれ。関西学院大卒。神戸新聞在職中の平成23年、『盤上のアルファ』でデビュー。28年、『罪の声』で山田風太郎賞。31年、『歪(ゆが)んだ波紋』で吉川英治文学新人賞。『騙(だま)し絵の牙』は来年の映画上映を予定している。京都市在住。

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