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「死ぬまで生きる。それだけだ」…緩和ケア医のがん闘病記が問いかけるもの

「最悪を考えすぎても気持ちが落ち込んでしまうと気づきました」と語る関本剛医師(宝島社提供、金子靖撮影)
「最悪を考えすぎても気持ちが落ち込んでしまうと気づきました」と語る関本剛医師(宝島社提供、金子靖撮影)
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 看取る側から、看取られる側になる-。その時、目に映る景色はどう変わるのか。がんを公表した緩和ケア医の闘病記が相次いで出版された。治療は進歩したが、がんは「死」に直結する病というイメージは強い。心の在り方に悩む患者や家族は多く、医師による血の通った言葉は、心を解きほぐす手がかりになりそうだ。

 宝島社から8月に出版されたのが、『がんになった緩和ケア医が語る「残り2年」の生き方、考え方』だ。著者の関本剛さん(44)は、神戸市出身。消化器内科や緩和ケア病棟での勤務を経て、母親の雅子さんが設立した在宅ホスピスのクリニック院長を務めている。1000人ものがん患者の看取りに関わってきたが、昨秋、ステージ4の肺がんと診断され、余命2年の宣告を受けた。

 本書では、緩和ケア医と患者という両方の立場から、治療の不安や妻や子供たちへの思い、死生観までつづられている。「がんに罹患(りかん)することが不幸ではない。生まれたからには必ず死がやってくるし、それまでは生きなければならない。幸せに最期を迎えるか否かは、自分次第という思いに至ったことを、社会に伝えたかった」と明かす。

 今でこそ、落ちついてがんを受け止めているが、診断を受けた当初は、気持ちが揺れていた。

 「がんはほかの病気に比べて寝たきりの時間が少ない。伝えようとすればぎりぎりまで自分の意向が伝えられますよ」。がんになっても自分らしく生きられる可能性を患者に伝えてきた。しかし、脳転移が判明。「性格が変わったり、まひが出たりするかもしれないと考えると、思い描いていた、がんになっても大丈夫、という気持ちがゆらぎました」という。

 厳しい現実を前にしたとき、緩和ケア医としての経験も役に立った。置かれた状況を知り、受け止め、選択肢の中から自分の生き方にあったものを選ぶのだ。今の心境を《楽に長生きしよう。死ぬまで生きる。それだけだ》と記している。

 今も治療を受けながら、仕事を継続。がんは、患者の現実を教えてくれた。

 「最善に期待し、最悪に備える」。患者にこう話してきたが、「つらいことばかり考えては生きていけない。そういうことはある程度忘れて、好きなもの、好きなことに熱中する鈍感力も必要」と思い至った。

 医療者の表情は思いのほか伝わる。「イラっとしているとか、面倒くさそうとかよく分かる。心底その人にとって良かれと思って伝えることが大切」

 病気のことは患者にも伝えている。「励まされることも多いです。ちょっと苦手だった患者さんも心を開いてくれるようになったかな」と打ち明ける。

 本書では、「人は生きてきたように死んでいく」「良き死は、逝く者からの最後の贈りものとなる」など看取りにまつわる言葉も紹介。緩和ケアの具体例も盛り込んだ。「緩和ケアは治療の選択肢がなくなっていく場所と思う方もいるかもしれませんが、楽に長生きできる場所。それを知ってもらえたら」

“患者風”吹かせていい

 昨年出版され、話題となったのが、大橋洋平さんの『緩和ケア医が、がんになって』(双葉社)だ。

 大橋さんは、平成30年6月、希少がん「消化管間質腫瘍(GIST)」と診断された。著書には、患者になって分かった苦しみや揺れる心情が綴(つづ)られている。

 共感を呼んでいるのが、きれいごとではない、ストレートな思いの数々だ。《終末期において、心身共にだんだんと弱ってきている状態で、よりよく、自分らしく、そうそう生きられるものではない》と吐露。《わがままに、超自己中に生きていけばいい。患者風を大いに吹かせよう》と、ユーモラスに描写する。

 出版不況にも関わらず版を重ね、4刷1万6000部。今年9月には、『がんを生きる緩和ケア医が答える命の質問58』(双葉社)を出版した。担当編集者は「がんになって、明るく前向きに生きるのはなかなか難しい。患者は当たり前に弱音を吐いていいというメッセージが、がん患者さんやそのご家族に響いてるのではないでしょうか」と話す。

「死」「最期」について知りたい

 がん患者の心のケアは、近年、注目が高まっている。今春出版されたのが、『がんで不安なあなたに読んでほしい。』(ビジネス社)だ。著者は、がん研有明病院の清水研・腫瘍精神科部長。患者や家族のカウンセリング経験をもとに、紙上で相談を再現。「治療がうまくいってる人がうらやましい」「初期の段階でがんを見つけてもらえなかった。その悔しさが消せない」といった、他人に相談しづらい内容も取り上げた。読者からは「この本に出合えて気持ちに余裕ができた」などの声が寄せられたという。

 がん経験者の声を発信する「NPO法人がんノート」の岸田徹代表理事は「がんを告知されたときのインパクトはほかの病気とは違い、死と直結したイメージを持ってしまう。患者が心の持ちようを知りたいと思っても、これまでは一般の方の闘病記かブログしか手段がなかった」と話す。ただ、ブログの場合、情報が玉石混交である上、更新が止まったり、亡くなったりしてしまうケースもあり、読んでつらくなってしまう人も少なくなかったという。

 ある出版関係者は、「最近はがんの患者本人への告知も当たり前になった。厳しい現実をどう受け止めればいいのか知りたいというニーズは高い。そこで、専門性のある医師の言葉が余計響くのだろう」と話す。

 患者の現実を知り、死に向き合った医師の言葉は、人生の最期だけでなく、生き方を考えるヒントも教えてくれる。   (文化部 油原聡子)

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