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【ザ・インタビュー】歴史に埋もれた築城家の数奇な生涯 伊東潤さん『もっこすの城 熊本築城始末』

「もっこすの城 熊本築城始末」を出版した作家の伊東潤さん
「もっこすの城 熊本築城始末」を出版した作家の伊東潤さん
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 日本三名城の一つ、熊本城(熊本市中央区)。江戸時代初期、築城名人として知られた肥後領主、加藤清正の下で、天下人を向こうに回しても戦える最強の城を築く野心的プロジェクトに心血を注いだ男がいた。作家、伊東潤さん(60)の新刊『もっこすの城 熊本築城始末』は、歴史の陰に埋もれた築城家の波乱の生涯を描く長編だ。

 天下人となった織田信長やその後を継いだ豊臣秀吉の全国統一の中で、豪壮堅固な総石垣作りや天守閣が生み出されるなど、日本の城郭建築が飛躍的な進歩を遂げた安土桃山時代。その末期、豊臣家の有力武将である加藤清正が自らの居城として築き始めた熊本城は、一大名の城としては異例の規模を誇り、戦乱の世で培われた築城技術の粋が詰まった織豊(しょくほう)系城郭の集大成として位置づけられる。

 「熊本城を実際にどんな技術者が作ったのかは記録に残っていないし、もちろん建設現場の様子は分からない。どのような苦労があったかは、現在残る痕跡から暴き出し、想像していくしかない。それができるのが小説だと思っている」

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 物語の主人公は尾張出身の若者、木村藤九郎(とうくろう)。架空の人物ではあるが、父親として設定した木村高重は実在の築城家で、本能寺の変後に自ら築いた安土城を枕に討ち死にした。その父から秘伝の築城書を受け継いだ藤九郎は、肥後への赴任を前に家臣団を募っていた清正に召し抱えられ、領内の治水工事や築城で頭角を現す。特に朝鮮の役では清正とともに渡海し、危険な前線での突貫工事で幾度も辛酸をなめた。本書は緻密な調査に基づき、用地選定や石垣積みなど城作りの具体的な過程も活写される。

 そして帰国後、天下二分の関ケ原の戦いを前に豊臣家の行く末を憂う清正から命じられたのが、南の島津軍と北からの徳川軍、どちらが相手でも持ちこたえられる日本一堅固な城を築くことだった。急迫する政治情勢に合わせた工期の短縮を厳命された藤九郎は、自らの全てを注ぎ込み、従来の築城術では不可能とされた無理難題をも工夫と人脈でクリアして、巨城を短期間で作り上げていく。

 「熊本城は天守台など一部に重ね積みという古い技法が使われているが、これは時間がなかったことを示すのではないか。清正が一次工事を猛スピードで終わらせた背景を思うと、やはり秀頼を迎え入れる可能性を考えていたのでしょう」

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 そもそも作家としての出発点も、城だった。平成14年に城跡の魅力に目覚め、「城のウェブサイトを作るつもりで文章を書き始めたら、どんどん文字が出てきて、小説が書けちゃった。城が生んでくれた小説家です」と語る。デビュー後しばらくは戦国時代の小説が中心だったが、近年は幕末や第二次大戦期、戦後が舞台のミステリーなど、幅広いジャンルで活躍する。

 熊本城には、かつて3度ほど訪れた。その魅力は、江戸期の政庁としての城とは異なる、極度に実戦重視の作りだとみる。「内枡形(うちますがた=城内に設けた狭い四角形の空間。侵入した敵の移動を妨げ、3方向から集中射撃を浴びせる)が5つくらい連続していて、そこまでやるかと思いました。城内の空間が狭くなり、儀式ができなくなる。戦闘用の城の最後の形でしょうね」

 だが28年に起きた熊本地震で、熊本城は各所の石垣や櫓(やぐら)が崩壊するなどの大被害を受けた。天守閣の修復は今秋ほぼ完了したが、全体の完全復旧までは約20年かかる。伊東さんが本作を構想した直接のきっかけが、この震災だったという。「かつて熊本城を訪問した際、これだけの文化遺産がよく残ってくれたと感銘を受けたことがあったので、震災は本当にショックでした。熊本の人たちのために何ができるのかと考えたとき、やはり僕の場合は小説を書くのが一番だろうな、と」

3つのQ

Qコロナ禍での執筆は

順調だ。年末には故火坂雅志氏の絶筆を書き継いだ『北条五代』(朝日新聞出版)が出る

Q熊本訪問時の思い出は

教育がいい。朝、町を散歩すると生徒たちが『おはようございます』と挨拶してくるのには驚いた

Q今年、還暦を迎えた

日本人とは何かを考えるようになった。過去の人の苦悩を、ドラマで書き残すのが歴史作家の仕事だ

(文化部 磨井慎吾)

     

いとう・じゅん 昭和35年、横浜市生まれ。早稲田大卒業後、外資系IT企業勤務などを経て、平成19年に『武田家滅亡』で作家デビュー。25年、『巨鯨の海』で山田風太郎賞。近刊に『茶聖』、『囚われの山』など。本作の関連作に『黒南風の海-加藤清正「文禄・慶長の役」異聞』がある。

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