【一聞百見】堤防も〝インプラント治療〟 決壊防止へ 技研製作所社長・北村精男さん

温暖化による豪雨災害で、1級河川流域では毎年、被害が起きている。政府は堤防強化などの対策を進めているが、その中で、東日本大震災の復旧工事や南海トラフ地震対策で用いられている堤防の新技術「インプラント工法」が注目されている。鋼鉄製の鋼管杭(こうかんくい)や鋼矢板(こうやいた)(板状の杭)を壁状に地中に打ち込むさまが、歯のインプラント治療に似ていることが名の由来だ。工法を開発した技研製作所(高知市)の北村精男(あきお)社長(79)は、堤防強化策を提言する著書「国土崩壊~『土堤原則』の大罪」(幻冬舎)を出版した。北村さんが主張する、決壊しない堤防技術について聞いた。
(聞き手・北村理編集委員)
■命を守れぬ堤防は意味がない
--著作では、水害で堤防が決壊し人命や財産が失われているのは「堤防を土でつくることに固執しているからだ」と主張している
北村 河川管理の法令で「堤防は土を盛ってつくる」と決められている。だから堤防が壊れても土の堤防をつくり続けている。確かに長大な河川に堤防をつくり、破れたら修復するには、どこでも調達できる土が素材として利用しやすい。けれど、人命や財産を守れないのでは意味がない。
--東日本大震災の復旧工事や南海トラフ地震対策など、沿岸部の堤防・防潮堤の工事ではインプラント工法を採用しているが
北村 きっかけは、東日本大震災で被災した岩手県山田町の河口で行われていた水門工事現場にある。そこを取り囲んでいた仮設の鋼矢板の二重壁が津波の直撃に耐えたことだ。現場周囲の従来工法の堤防が破壊されていただけに、インプラント工法の強さが際立った。そして大震災の翌年、南海トラフ地震に備えるために行われた高知県春野海岸の堤防強化工事で採用された。国土交通省の事業としては画期的ではあるが、同省所管の河川堤防では「土堤原則」を理由にインプラント工法は採用されていない。

--国交省の河川堤防強化技術の検討会では、インプラント工法を「土の堤防」を強化する「一部自立型技術」としている
北村 インプラント工法による堤防はそれだけで「決壊しない堤防」の役割を果たせる。「一部」ではなく「完全自立型技術」だ。このことは、先に述べた東北で津波に耐えた事例もそうだし、工法開発から40年以上にわたり蓄積された工事データと、国際圧入学会(IPA)で学術的に客観的な検証がなされている。