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【一聞百見】令和の時代を軽やかに 万葉集もエッセーも 奈良大学教授・上野誠さん

 成長して東京の大学に進み、やがて奈良に居を定めた次男坊の上野さんだが兄が亡くなったことで家長代理を務めることになる。かつて繁栄した商家だった上野家の立派な墓や、老いた母の介護が待っていた。

 悪戦苦闘の墓じまいは同じ悩みを持つ人の参考になるかもしれない。そして母を半分だまして奈良に連れてくるくだりはほろりとさせる。こんな問答が母が亡くなるまで続いたそうだ。

 <母 いつ、福岡の病院は空くとね。

 息子 まだ、空かんとよ、それが>

 母・繁子さんは俳句雑誌「ホトトギス」の同人で、地元で選者も務める著名な俳人だった。

■軽妙なユーモアは母譲り

 万葉学者で奈良大学教授とくれば「奈良のご出身ですね?」と聞かれることが多いのだという。「れっきとした九州男児です」とニンマリ。福岡県出身。3人きょうだいの末っ子で家族にかわいがられて育った。

 おもしろいエピソードがある。地元の高校を卒業後、東京の國學院大学に進んだ上野さん。ある日、ふと目をとめた新聞の俳句欄にこんな句が載っていた。

 <一流に少し外れて入学す>

日本エッセイスト・クラブ賞を受賞した上野誠さんの著書。装丁は南伸坊さん
日本エッセイスト・クラブ賞を受賞した上野誠さんの著書。装丁は南伸坊さん
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 いい句だなあと、うどんをすすっていた上野さんは、作者名を見て思わず噴き出す。「福岡 上野繁子」とあったのだ。俳誌「ホトトギス」の同人として活躍した母であった。「なんというか…母の俳句はある種の軽やかさというか、軽妙なおもしろさが持ち味なんです」と苦笑する。代々、家は呉服商で父の代で廃業するが、「いうなれば商家のごりょんさん(奥さん)の俳句。生活感があって、博多人独特のユーモアで自分で自分を笑うところがある。姉の成人式に詠んだ<振袖の肩の重みは父が背負い>とかね。それなら他人に迷惑はかからないって発想です。よく大阪の人は口が達者といいますが、福岡の人も達者なんです」。

 で、こんな後日談も披露してくれた。テレビでその話をしたら、「國學院大学は一流です」という手紙が届いたそうだ。

 子供のときから考古学好き。高校時代は発掘が進む大宰府の歴史に夢中になった。「史学科に行きたかったんですが結局、文学部日本文学科に。でも今思うと、福岡って日本の古代文化にとってはとても重要な拠点なんですよ。万葉集はもちろん近畿が中心ですが、東歌があって筑紫がある。福岡に18年、東京に12年、そして奈良に29年。どこにも土地勘ができました」

 まさに万葉集の〝ご当地〟を人生のそれぞれの時期に過ごしてきたわけだ。人間味と生活感あふれる歌や文学の研究も、上野さんには合っていたのだろう。

 軽妙なユーモアは母譲りとして、旺盛なサービス精神は江戸時代から続く商家の末裔(まつえい)という家庭環境にあったらしい。

(次ページは)万葉集訳 現代人に響くよう…

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