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【一聞百見】令和の時代を軽やかに 万葉集もエッセーも 奈良大学教授・上野誠さん

「万葉集の注釈書を書きたい」と目標を語る上野誠さん=奈良市(柿平博文撮影)
「万葉集の注釈書を書きたい」と目標を語る上野誠さん=奈良市(柿平博文撮影)
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 令和はこの人の時代かもしれない。万葉学者で奈良大学教授の上野誠さん(60)。わかりやすく、ときにユーモアも交えた万葉集の解説は学生や一般からも人気が高いが、このほどまた別の才能が評価された。優れた新人エッセイストを表彰する今年の「日本エッセイスト・クラブ賞」に近著が選ばれたのである。それも、専門の古典分野ではなく、祖父から母の死、墓じまいまでをつづった一家族の小さな歴史ともいうべきエッセーだ。「還暦の記念になった」と笑う上野さんに話を聞いた。

(聞き手・山上直子編集委員

■万葉学者がつづる家族の歴史

 「もともとエッセーを書くのは好きなんですが、日本エッセイスト・クラブ賞をいただくとは。最近、学者が小説を書くこともあるし、学問という枠組みだと狭すぎることがある。まあ、論文も一種のエッセーだと思っていますけれど」

 相変わらずサービス精神旺盛な語り口が楽しい。上野さんには遣唐使の冒険を描いた小説「天平グレート・ジャーニー」などの著作もある。多彩な人なのだ。

 今回、受賞したのは「万葉学者、墓をしまい母を送る」という自伝的エッセー。少年時代に初めて経験した人(祖父)の死と葬送の記憶から、故郷・福岡の〝立派すぎる〟墓じまい、そして母を奈良に引き取り看取るまでの一家族の歴史を語っている。

 とはいえそこは万葉学者。フランスの歴史学者らの研究を踏まえ「心性の歴史」と位置づけた。持論は「歴史学は大きな歴史を語るけれど、小さな歴史がそれを形成している」ということ。

 昭和48年の夏に祖父が亡くなる少し前から話は始まる。いよいよとなり、入院していた祖父はなんと病院から家に帰されたのだった。個人病院で「悪い噂がたっても困ります」という理由で。家族はそろって実家に帰り、その「死」を看取ることになる。中学生だった上野さんも祖父の家で夏を過ごすことになった。

 「多くの人が病院で亡くなる現在では考えられませんよね。皆でその時を待っていたわけですが、今から思うとそれは、豊かといえば豊かなことでした。家族が死んでゆく人のために時間を使うわけだから」

 そして祖父の葬儀で体験したのが、地元のしきたりの一つ「湯灌(ゆかん)」だった。遺族の手で死者を風呂に入れて清める儀式で、その体験をやがて学者となった上野さんは反芻(はんすう)し、思索する。道しるべとなったのは「古事記」や「日本書紀」で語られる神話、イザナキノミコトとイザナミノミコトの物語であった。このあたり、普通のエッセーではない。

(次ページは)軽妙なユーモアは母譲り…

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