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ロシア公認宇宙飛行士を目指した男、高松聡の「新たな夢」 東京で初個展

高松聡「FAILURE」の展示風景。自らのネームが入った宇宙服も公開
高松聡「FAILURE」の展示風景。自らのネームが入った宇宙服も公開
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 展示ケースに入った宇宙服は、まるで屍(しかばね)のよう。かつてクリエイティブ・ディレクターとして伝説的CMを手掛け、現在は写真家・アーティストとして活動する高松聡(57)の初個展「FAILURE」が、東京・北青山のSPACE FILMS GALLERYで開かれている。2015年、ロシア公認の宇宙飛行士となるべく過酷な訓練を完了するも、想定外の事情でチャレンジ“失敗”となった高松。一体、何があったのか-。ロシアの「星の街」で撮り続けた写真と映像作品を軸に、「失った夢」と新たに「見つけた夢」について語った。

(文化部 黒沢綾子)

世界の歌姫、まさかの辞退

 英国歌手サラ・ブライトマン(60)が民間宇宙旅行者としてロシアの宇宙船ソユーズに搭乗し、国際宇宙ステーション(ISS)から歌声を届ける、と発表したのは2012年のこと。実現すれば、プロの音楽家では初となる壮大な計画。その後、彼女のバックアップクルー(交代要員)に選ばれたのが当時、宇宙旅行代理店を経営していた高松だった。

 2015年9月の飛行に向け、同年1月から、ソ連時代からの宇宙関連施設が集まるモスクワ郊外「星の街」で、高松はブライトマンとともに宇宙飛行士訓練を開始する。「到着時はマイナス30度。朝9時から夜6時まで、最初は訓練を受けるだけで精いっぱいだった」と振り返る。

 交代要員なので、実際に宇宙に行ける可能性は低い。しかし8カ月間、計800時間の訓練を無事終了すれば、ロシア宇宙庁公認の宇宙飛行士になる予定だったという。「宇宙飛行士になりたいという幼い頃からの夢が、肩書だけでもかなうなと思っていました」

 ところが事態は暗転する。5月になって突然、ブライトマンは飛行を辞退し星の街を後にしたのだ。

 「(ロシア宇宙庁から)バックアップ対象がいなくなったのだから、1週間以内に荷物をまとめて帰るよう言われた。いや、待ってくれよと。サラ・ブライトマンのためじゃなくて、俺は宇宙飛行士になりたくて来てるんだと」。話は平行線をたどったが、結局、高松は最後まで訓練を続け、すべての試験をパスし卒業式を迎えた。が、公式クルーではない高松の卒業証書に「宇宙飛行士に認定」との一文はなかった。

写真家としての目覚め

 実は、高松とロシア宇宙庁との関係は長い。2001年、高松は電通社員として、世界で初めて宇宙空間でのCM撮影を、大塚製薬ポカリスエットで実現した。その後も日清食品のカップヌードル「NO BORDER」で、宇宙を扱ったCMを制作。これらの舞台となったのが、国際宇宙ステーションの「ロシアモジュール」だった。宇宙空間を浮遊する飛行士たち。時を経て、自身も仲間入りするはずだったが…。

 高松は訓練のかたわら、子供の頃から好きだったカメラを手に日々、「星の街」を撮り続けていた。「地球は青かった」でおなじみの英雄、ユーリ・ガガーリンも暮らした街だ。「いつ退去を命じられるかわからない不安と、いま撮れるものを撮らなきゃという焦りで、撮影にのめり込んでいった」と明かす。その数、1万枚以上。一部を今回の個展で発表している。

 訓練用の原寸大ロシアモジュールなど、現地の宇宙関連施設や装置はどれもレトロなたたずまい。「それが何ともかわいい。街全体がとにかく老朽化している」。古めかしいレンガ積みの建物に、花が彩りを添えている。「冬が長いのでロシアの人は鉢植えが好き。草花の写真が多くなったのは、僕も不安な精神状態の中で、癒しを求めていたからかもしれません」

 カザフスタンのバイコヌール宇宙基地で、発射前のソユーズロケットも撮影。望遠レンズではなく至近距離で迫力ある写真が撮れたのは、訓練生ならではといえよう。

 卒業証書の現物、実際の訓練服なども今回、展示している。特に、宇宙服を入れた展示ケースは棺のようで、高松は自らの「夢の死」を改めて感じたという。

共有したい「宇宙で見る地球」

 なくした夢もあれば、見つけた夢もあった。「星の街で、写真家としての自分に目覚めた」と高松。「宇宙飛行士という肩書はもうどうでもいい。ただ、宇宙で撮りたいものがある」

 多くの宇宙飛行士と交流する中で、「宇宙から地球を見る」体験は、精神変容を起こすほど強烈なものと確信したという。真っ暗な宇宙空間に青い地球が浮かぶ光景は、われわれも写真や映像で見たことはあるが、飛行士たちに言わせると「実際の視覚体験のせいぜい1割程度」らしい。「ガガーリン以来、約500人が宇宙に行きましたが、その中にプロの写真家やクリエーターはいない」

 ISSに滞在し、超高解像度の動画とスチールで地球を撮影したい。そして、「宇宙で見る地球」に限りなく近い視覚体験ができる装置をつくり、多くの人にその機会を提供したい。それが、いまの夢だという。

 「地球をその目で見たら、緑や生態系を守る心が芽生えるかもしれない。ミサイルを打ち合うなんてありえないと思うでしょう。地球人としての意識を多くの人と共有したいのです」

 <たかまつ・さとし>1963年生まれ。宇都宮市出身。筑波大学基礎工学類卒業後、電通に入社。2005年に独立しクリエイティブ・エージェンシーGROUNDを設立。2015年、ロシアで宇宙飛行士訓練を完了。現在は写真家・アーティストとして活動。

 個展「FAILURE」は9月27日まで。開館は午前11時~午後7時。月曜休。入場無料。

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