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名著「失敗の本質」コロナ禍で再注目…日本の調子が悪くなると売れる?

今も新刊書と肩を並べ平積みされる『失敗の本質』=東京都千代田区の丸善丸の内本店
今も新刊書と肩を並べ平積みされる『失敗の本質』=東京都千代田区の丸善丸の内本店

 先の大戦での旧日本軍の失敗を組織特性の面から分析したロングセラー『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』(戸部良一ほか著、中公文庫)が、新型コロナウイルスの感染拡大を機に再注目されている。版元によると、今年3月以降、2回にわたって計2万5000部を増刷。著者の一人が「日本の調子が悪くなると売れる」と指摘する同書は、今回のコロナ禍で露呈した政府対応の混乱など、刊行後36年を経ても変わらない日本の組織の弱点を浮き彫りにする。  (文化部 磨井慎吾)

 政治混乱と連動?

 『失敗の本質』は、昭和59年にダイヤモンド社から初版刊行。防衛大学校の教官グループを中心に、組織論の研究者が加わって、ノモンハン事件やミッドウェー海戦、ガダルカナル戦など、第二次大戦期の日本陸海軍の主要な6つの失敗例から組織としての日本軍の弱点を分析。客観的データを軽視したご都合主義的な戦略策定や、過去の成功モデルへの固執、情緒的人間関係に基づくあいまいな業績評価など、物量面だけでなく組織体質の面でも日本軍は米軍に敗北していたことを解き明かす共同研究だ。平成3年に中公文庫に収録されて以降、現在までに75万部を超えるロングセラーとなっている。

 中央公論新社によると、23年の東日本大震災の際には震災後4カ月間で4万部を増刷。同書は毎年のように1万部単位の増刷がかかる息の長いタイトルだが、長期的にみると政治の混乱などで国家の運営がうまくいっていない印象が広がった時期に話題にのぼりやすく、売り上げもそうした際に伸びる傾向があるという。

 「半ば冗談ですが、この本は日本の調子が悪くなると売れる」と語る(「中央公論」9月号)のは、著者の1人で、同書全体のチェックを担当した戸部良一・防衛大学校名誉教授。産経新聞の取材に対し、「理論面など、内容的には難しい部分も多く含む本。正直なところ、出版時にはこれほど売れるとは思っていなかった」と感慨を述べる。

失敗の反復は残念

 刊行当時は、日本的経営を高く評価した米社会学者エズラ・ボーゲル氏の『ジャパン・アズ・ナンバーワン』がベストセラーとなり、バブル景気を目前にした日本経済の絶頂期だった。「ただ、われわれはこんなことが長く続くわけはないと思っていたし、企業でも官庁でもさまざまなひずみが出てきた時期でもあった。かつてと同じ失敗は繰り返してほしくない、という思いはありましたね」

 だが、同書の感想として今でも多いのは、トップのあいまいな指示や結果より動機やプロセスを重視する評価制度など、旧日本軍と同じ弱点を現代日本の組織も抱えているとの声だ。

 「読者がそう感じるのは、分析が正しかったという点ではよいのですが、同じ失敗を繰り返しているのだとすれば大変残念です」

 80年前と同じ失敗ゆえに、ともすれば日本文化が持つ逃れられない弱点だとする諦めや安易な日本特殊論にも結びつけられがちだが、戸部名誉教授は「この本は韓国語版や中国語版も出ています。共著者で一橋大名誉教授の野中郁次郎先生は当時、『今もてはやされている日本的経営の長所とは、実は世界で成功しているどの企業もやっていることだ』と言っておられた。同様に、日本の失敗も実は必ずしも日本的な部分に特徴づけられないのではないか、とも思います」と述べ、普遍的な官僚組織の問題である面も大きく、どこまでが日本固有の問題といえるかは慎重に検討すべきだと指摘する。

「答え」は書いてない

 本書の中核となるのは、日本軍は過去の成功体験に過剰適応した組織ゆえに、環境が大きく変化した際、自らの戦略と組織を主体的に変革する自己否定的学習ができなかった、というメッセージだ。それゆえに戸部名誉教授は「執筆時に警戒したのは、(失敗条件の)チェックリストを作ってはいけない、ということでした。リスト化すれば、そればかりが独り歩きしてしまう」として、特定のやり方を避ければよい、と教訓を単純化して墨守するようなハウツー本的読み方には否定的だ。「この本は、以前はこう失敗したというパターンやモデルを提示したのであって、答えが書いてあるわけではない」。危機は常に違った形でやって来るので、万能の処方箋は存在せず、その都度考えるしかない。本書がロングセラーになった理由も、おそらく「答え」を安直に与えない部分にありそうだ。

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