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【ザ・インタビュー】母と娘の確執、家族のあり方問う 遠田潤子さんの直木賞候補作「銀花の蔵」

直木賞について「一度くらいは候補になってみたいと思っていました」と語る遠田潤子さん (C)新潮社
直木賞について「一度くらいは候補になってみたいと思っていました」と語る遠田潤子さん (C)新潮社
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 小説家デビューから11年。今春刊行した「銀花の蔵」が直木賞候補に初めて名を連ね、話題となった。「女性を主人公にするのは新しい試みだった。直木賞候補となり、この試みが間違っていなかったことが分かって、うれしかった」。はにかむ表情に、手応えをにじませた。

 候補作は奈良にある醤油蔵が舞台。小学生の銀花が醤油造りを継ぐこととなった絵描きの父、料理上手な母とともに、厳格な祖母が切り盛りする蔵へと移り住むところから、物語は始まる。

 「昔読んだ宮尾登美子さんの『蔵』という小説が大好きで、小説家になったら一度くらいは“蔵モノ”を書いてみたいと思っていました。宮尾さんの作品は酒蔵だったので、そこはまねすることなく、醤油かみそかと。奈良に女性杜氏がいる醤油蔵があると知り、取材をしてみて、醤油蔵に決めました」

 家族をめぐる数々の苦難や悲痛な過去に向き合いながら、銀花が大人へと成長し、老年期を迎えるまでを描いた大河小説。主人公の少女時代を1970年前後に設定したのは「大阪に住む古い人間からしたら、(1970年の)『大阪万博』がものすごくわかりやすい区切り」だから。時代の流れを表現するため、当時人気を博した少女漫画家や歌謡曲の名前などをちりばめた。「読者に当時の雰囲気を思い出してもらい、共感してもらえたら」と話す。

 物語には「座敷童(わらし)」が登場し、謎解きの核となる。ファンタジー要素も遠田作品の特徴だ。

 「子供のころに民話や伝説、おとぎ話を愛読していた時期が長く、その後、ホラーや幻想に興味を持ちました。“蔵モノ”を書こうと思ったとき、何かアクセントとなるモチーフがほしいなと。座敷童が蔵に出たら面白いかなという発想でした」

 本書では母と娘の確執が大きなテーマとなっている。主人公の銀花は、盗癖のある母との関係に悩み続け、やがて血のつながりを超えた家族の幸せを手に入れる。遠田さんは過去の作品でも、血縁のしがらみや、家族のあり方について問いかけてきた。

 「家族ってふつうは血縁関係で、いやでも逃れられないもの。私は『女子に勉強はいらない』『本を読むと生意気になる』といった古い考えの母のもとで育ち、息苦しかったんだと思います。家族ではない関係に自分のやすらぎを求めた、というのが正直なところかもしれません」

 ただ本書では、年を重ねた主人公が母親の生き方を肯定的にとらえなおすシーンも描いた。

 「母親にけりをつけないと、銀花は大人になれないわけです。『毒親』を娘がどう昇華し、大人になっていくのかを書きたかった。前向きに人と触れ合える主人公は私の願望です」

 実生活では結婚後、専業主婦として子育てをしながら、病に倒れた実母を介護し、見送った。

 「母親が死んだとき、燃え尽き症候群に陥り、1年ほどぼんやりしていました。そのリハビリのためパソコンを買い、キーボードを打つ練習をして、エッセーや日記を書き始めて…。どうせ書くなら小説を書こう、書くならプロになろうと思ったのが、38歳のころでした」

 作品では、過ちを犯した人々を描くことも多い。

 「自分自身がネガティブな人間で過去のことばかりを気にしてしまう。専業主婦になったのも、人付き合いが苦手で、家で一人で家事をしている方が楽だという逃げの部分もあったので、ダメな人間には共感してしまうのでしょう」

 「失敗してしまった人が、どう生きていくのかに興味が動く」と語る遠田さん。ドストエフスキーの『罪と罰』、森鴎外の『阿部一族』が目標だという。

3つのQ

Q大学時代に学んだことは?

ドイツ文学。ワーグナーが書いたオペラの台本をもとに卒業論文を書きました

Qインプットの方法は? 映画や漫画。映画なら「ゴッドファーザー」のシリーズが一番好きです

Q執筆のペースは?

家事の合間に細切れに書いています。午前は朝食後に洗濯物を干してから。午後は夕方買い物に行くまでの時間など

(文化部 篠原那美)

     

とおだ・じゅんこ 昭和41年、大阪府生まれ。関西大学卒業後、会社員生活を経て結婚、専業主婦に。平成21年「月桃夜」で第21回日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、作家デビュー。「本の雑誌が選ぶ2017年度ベスト10」で「オブリヴィオン」が第1位に輝く。他の著書に「冬雷」「ドライブインまほろば」など

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