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時代小説作家の戦国時代は来るか? 直木賞候補作家の今村翔吾さん、若手作家育成へ

作家の今村翔吾さん
作家の今村翔吾さん

 7月に発表された第163回直木賞に、希代の悪人といわれた戦国時代の武将、松永久秀の生涯を描いた『じんかん』(講談社)がノミネートされた今村翔吾さん(36)。2度目の候補入りも受賞を逃したが“次点”扱いと高く評価された。自身の執筆と同時に今考えるのが、人気低迷気味の時代小説の復権だ。ライバル作家の育成を目指すというが、時代小説作家の“戦国時代”再来はあるのか。

(文化部 伊藤洋一)

高1で構想練る

 「出自は不明だけど、(居城とした)信貴山にはよい領主だったとも伝わる。高校1年の時には、書きたい構想の一つにありました。70年の生涯を1冊にするのは難しいね。本当はこの(単行本509ページ)3倍は書くことができたけど、押さえました」

 今村さんは『じんかん』秘話を明かす。

 主家である三好氏の要人を殺害し乗っ取り、室町幕府の将軍・足利義輝を暗殺し、東大寺大仏殿を焼き打ちした-。「三悪」を犯したとされる松永を『じんかん』では、戦なき世の中を樹立しようとした志高い人物として描いた。選考会では分量の多さに難点が付いたが、「大悪党像を塗り替えようとした野心作」(選考委員の宮部みゆきさん)と高く評価された。

減少する文学賞

 平成29年3月にデビュー。角川春樹小説賞を受賞した「童の神』が第160回直木賞候補になるなど、「駆け抜けてきた3年半で、名前を知ってくれる読者が増えた」という自負はある。「“外れがない”とか“男を描かせたら間違いない”といわれるようになり、期待に応えなあかんというプレッシャーはあるよね」と語る今村さんの野望は、読者を楽しませること以外にもある。

 「時代小説を書く若い人を支援するような組織を作りたい。(歴史上の人物を事実に即して表す)歴史小説はそうでもないけど、(時代劇など架空の人物を描く)時代小説は世の中に出にくいんですよ」

 1つの要因として、アマチュアの発表機会の減少をあげる。葉室麟さん(1951~2017年)を輩出した「歴史文学賞」は、平成19年(第32回)を最後に作品募集を中止。松井今朝子さん(66)が受賞者に名を連ねる「時代小説大賞」も平成11年、第10回の選考で終了している。そして今村さん自身が「狐の城」で大賞を受賞した「九州さが大衆文学賞」も翌29年の選考が最後だった。

 江戸時代を舞台に火消し集団の活躍を描く「羽州ぼろ鳶組」シリーズ(祥伝社文庫)や、江戸の町から逃げ出したい人を手助けする「くらまし屋稼業」シリーズ(ハルキ文庫)をコンスタントに刊行する今村さんだけに、「ボクがやめたら終わってしまいかねないジャンル。時代小説はなくしたくない」と危惧するのだ。

 5年以内に、時代小説家育成システムを作りたいと話す。「昔のようなガリガリの子弟制度でもなければ、(誰でも受けられる)小説講座でもない。見込みがある子を世に出していくために、小説の書き方や構成、心構えみたいなものも教えられたら。素人の感覚が残っている今のうちに、自分が間違っていたことを伝えたい」とも。

目指すは松下村塾?

 小学5年のとき、母親に古書店で真田太平記全集を買ってもらって以降、池波正太郎、司馬遼太郎作品など歴史・時代小説ばかりを読破してきた。しかし、書き方を誰かに教わったわけではない。

 「ボクの初期の原稿は、内容はそこそこだけど、改行がなかったり節(せつ)で分けてなかったりと、相当読みにくかったらしい。書くうえで、知っておいたらよかったということが他にもいっぱいあるので、伝えていければ」

 作家になる前は、家業であるダンススクールのインストラクターとして、長く子供たちを指導してきた。教え方のノウハウは持っている。

 「(ダンススクールの)子供たちもそうだったが、地道にやってきたことが(成果として)ポンとはねる瞬間があると思う。『じんかん』は次の段階に上がるための作家として最初の集大成で、次に挑む山の高さを決める作品だったかな、と思います」

 2度目の直木賞候補で、その山は相当、高くなったはず。それだけに、この育成システムが稼働し、運よくプロ作家…つまりライバルを生み出すことになっても、問題はない。

 「松下村塾の吉田松陰先生のように、ショウゴウ先生と呼ばれるかな…。(教え子と)競争できるのは楽しいし、ライバルになっても構わない。負けないですよ」

 連日、朝8時から日付が変わるまで、原稿用紙100枚以上書く量産作家は、時代小説を望む読者がいるのに、提供する作家がいない状況は避けたいと強く思う。

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