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聴覚障害の母がダウン症次男を切りつけた孤独と誤解

 ただそんな母親も、徐々に精神に不調をきたすようになっていた。

 事件の3カ月前。次男が作業所の旅行で家を空けた日を見計らい、自殺しようと思い、行く当てもなく電車に乗った。ある駅で降りてしばらく歩いていると、深い谷にかかる橋にさしかかった。橋から身を投げようとしたが、それ以上は体が動かなかった。

 〈とにかく心が苦しかった〉。公判で母親が当時を振り返った。なぜ自殺を踏みとどまったのか。理由は次男の存在だった。自分が死んでしまうと〈息子が1人になる〉。

 長女は母親について「悩みや困りごとを相談できない性格」と述べた。数年前に亡くなった夫との不和により、「思っていることを抱え込むようになってしまったのかな」。

一方的な思い込み

 厳しい生活だった。それでも親子は互いを信じ、何とか生きていた。だが事件直前、決定的ともいえる出来事が起きた。

 日本年金機構から母親宛てに届いた通知。親子の生命線だった障害年金の受給額に関するものだ。母親は2カ月に1度、約16万円を受け取っていたが、10月以降は約2千円減額される。そんな内容だった。

 しかし、いつまでたっても次男宛ての通知が届かない。実は今回、年金が減額されるのは母親だけで、次男への通知は届くはずがなかった。

 ただ母親の受け止めは違った。「次男の年金が打ち切られる」。生来の性格からか、年金口座や生活費の管理を任せていた長女にも相談しなかった。

 次男の年金が止まれば、収入のおよそ半分を失う。「このままでは2人で生活ができない」。早合点からの思い込みだった。次男を1人にはできない。将来を悲観した母親は、無理心中を決めた。

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