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【ザ・インタビュー】人の心を打つ 類を見ない建築 建築史家・建築家 藤森照信さん

「今でも故郷の山と、幼馴染ら地元の人に助けられています」と話す藤森照信さん(三尾郁恵撮影)
「今でも故郷の山と、幼馴染ら地元の人に助けられています」と話す藤森照信さん(三尾郁恵撮影)

 芝にびっしり覆われた、巨大な「草屋根」。屋根と前庭に広がる緑が、背後の八幡山と溶け合う。見たことのない風景、建物を前にして皆、声を上げる。駆け出す子供もいる。

 滋賀県近江八幡市に5年前にオープンした「ラ コリーナ近江八幡」。和洋菓子の「たねやグループ」の施設で、本社屋や旗艦店など、広大な敷地にユニークな4つの建物を設計した。今では年間300万人以上が訪れる県内随一の観光名所に。メインショップ「草屋根」は卓越した芸術作品として昨年度の日本芸術院賞を受賞した。

 「『ラ コリーナ』と『多治見市モザイクタイルミュージアム』(岐阜県)ができたとき、一段落ついた感じがしましたね。なかなか、あんなに自由につくれることってないから」

 日本の近現代建築史研究の第一人者として活躍していた45歳の時、思いがけず設計をすることになった。故郷の長野県茅野市で手掛けた処女作「神長官守矢(じんちょうかんもりや)史料館」だ。建築家として28年、このほど集大成となる作品集を上梓した。国内外で手掛けた全61作品が美しい写真とともに掲載され、ずっしりと重い。

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 一貫するコンセプトは「科学技術を自然で包む」。構造・設備は現代の科学技術でつくるが、外側の仕上げには木や石、土、植物など自然素材を使う。

 藤森建築ではおなじみの素材「焼杉」や「手曲げ銅板」づくりなど、施主や周りの人々も喜んで仕上げ作業に参加する。自身も設計だけでなく、山に木を切りに行ったり、現場で施工に参加したり。「自動車や航空機など他の産業は素人が手出しできないけれど、建築ってね、誰でも手伝うことができる」

 原点は故郷であり、幼少期の日々。「子供の頃から大工仕事は好き。田舎で育つと、土木・建築的なことは農業の延長にあるんですよ」

 屋根にタンポポを生やした「タンポポハウス」に、ニラを植えた「ニラハウス」。前者は自宅、後者は「路上観察」仲間で盟友の美術家、赤瀬川原平さん(1937~2014年)宅だ。藤森建築のテーマの一つ「建築緑化」は、この初期の2住宅から始まった。

 「土が分厚く載っているので断熱性はすごくいい。冬は温かく、夏はひんやりする。でもメンテナンスが大変。植物って放っておくと枯れるか、めちゃくちゃ伸びるか…」。試行錯誤してノウハウを蓄積し「ラ コリーナ」の草屋根に至るが、メンテナンスが大事なのは変わらない。なぜ、建築緑化なのか。

 「他の人たちが失敗したからかな」と笑う。モダニズムの巨匠、ル・コルビュジエ(1887~1965年)は「近代建築五原則」の一つに「屋上庭園」を挙げたものの、うまくいかなかったのか、何も言わずにやめてしまった。「屋上や壁面緑化をする例は多いが結局、建築が勝ってしまう。もっとちゃんと自然と建築を一体化させたい」。エコロジーとは違い、美学の問題として「自然と人工の対立を調停したい」と語る。

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 栗の木2本を柱に地上6・5メートルの高さに庵を載せた、その名も茶室「高過庵」。台湾でつくった宙づりの家「フライングハウス」…。「何度も手を動かして描くうちに、空想みたいなかたちが出てくる」。そんな時代も場所性も超える建築は、世界中で愛されつつある。

 赤瀬川さんはかつて藤森建築を「縄文的」と表現した。木が屹立(きつりつ)する造形を見て、建築家の故郷、諏訪大社の「御柱(おんばしら)」を想起する人も少なくない。でも本人は「自分の表現については、よくわからない」と語る。作品集に収められた論考で今回、自身の表現の理論化を試みているが、いつの時代も人々の心を打つのは、創作者自身が気が付いていない、何かだ。建築史家としての藤森さんが、それを一番知っている。(黒沢綾子)

3つのQ

Q行きたい場所は

ジャイナ教の本山など、インドでまだ見ていない建物がある。そこに行けたらもう、世界中の見たい建物はほぼ見終えたことになる

Q最近面白かった本は?

「モンベル」の創業者、辰野勇さんの本。本物のクライマーが世界的なアウトドアメーカーを起こすまでの経緯に、へぇーと驚いた

Q最後の晩餐には何を?

赤瀬川原平さんはお茶漬けだと言ってたけど、僕はうな丼かな

ふじもり・てるのぶ 昭和21年、長野県生まれ。53年、東大大学院博士課程を修了。平成13年「熊本県立農業大学校学生寮」で日本建築学会賞作品賞。『日本の近代建築(上・下)』『建築探偵の冒険・東京篇』(サントリー学芸賞)『藤森照信 建築が人にはたらきかけること』など著書多数。東大名誉教授、工学院大特任教授。江戸東京博物館館長も務める。

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