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空っぽでもなぜか満たされる 世田谷美術館 「作品のない」展覧会

作品のない展示室。周囲の風景はまるで絵画のよう(鈴木健児撮影)
作品のない展示室。周囲の風景はまるで絵画のよう(鈴木健児撮影)
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 何も置かれていない、がらんとした部屋。大きな横長の窓に縁取られ、ケヤキの緑がひときわ映える。東京のオアシス、砧(きぬた)公園にある世田谷美術館でいま、風変りな企画展「作品のない展示室」が開かれている。コロナ禍による苦境を逆に利用し、疲れた人々の心を和らげる作戦だ。 (文化部 黒沢綾子)

 空白どうする?

 ウイルスが猛威をふるう中、世界中の美術館が展覧会ラインアップの大幅変更を迫られている。世田谷美術館の職員たちも、予定していた企画展の中止や延期など、在宅勤務ながら複雑な調整に追われたという。

 2階ではほぼ普段通り、収蔵品展を開いているが、いつも企画展を行っている1階展示室の予定が7、8月にかけて空白になった。

 「1階展示室を閉める選択肢もあった。でも、今後どうしようかと(職員らで)話し合う中で、一人が『何も置かずに窓を開けて外を見てもらうのはどうか』と提案した。『なるほど、それだ!』と皆、賛同したんです」。橋本善八・副館長兼学芸部長は振り返る。

「素顔」を見せる

 1986年開館の世田谷美術館は、吹上新御所の設計などで知られる建築家、内井昭蔵(1933~2002年)の代表作。「健康な建築」を唱えた内井は、自然が生み出す秩序やかたちを建物に取り入れ、一見、饒舌(じょうぜつ)とも思える建築をつくり上げた。合理性だけではなく、人間にとっての親しみやすさを追求したのだろう。

 緑豊かな公園に溶け込むよう、同館は窓の多い開放的なつくりになっている。ただ、来館者がそれを実感できる機会は少なかった。作品を陽光から保護するため、窓を可動壁などでふさぐことが多いからだ。「美術館の“素顔”をこの機会に見てもらいたい」と橋本副館長は話す。

 細かい仕切りも、作品もない大空間。明るく照らした空(から)の展示ケース、搬入口など、美術館の「機能」もあえて見せている。隣接のギャラリーでは、これまで開催した195の企画展(今回中止になったものも含む)のポスターや、パフォーマンスの記録映像などを紹介している。

社会にひらく

 それにしても、何度も訪れた美術館なのに、こんな風に外が見えるなんて知らなかった。「作品が入ると美術館は“ハコ”になってしまう。内井さんの建築思想は、内側から窓を開けてみることで、より理解できるんじゃないか」。副館長はさらにこう語る。

 「先行きが見えない中で今、世界中の美術館が迷っていると思う。僕らも空っぽの展示室に立ち、美術館が社会に対して何ができるかを考えた」

 窓辺で笑い合う親子、散歩中に訪れたという近隣夫婦…。入館者の定数管理など必要なコロナ対策は取られているが、展示室には確かに、ゆったりした時間が流れていた。

 「皆さん、コロナ疲れもあるでしょう。暑い盛り、空調のきいた館内からのんびり砧公園の緑を見てリフレッシュしてもらう。そんな場を提供できたらいいなと思っています」

 「作品のない展示室」は入場無料。8月27日まで。月曜休館(祝日は開館し翌日休)。

 2階展示室のコレクション展「気になる、こんどの収蔵品」は8月16日まで(一般200円)。問い合わせは世田谷美術館03・3415・6011へ。動画共有サービス「YouTube」の「世田美チャンネル」でも、作品解説などさまざまな情報を発信している。

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