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【ザ・インタビュー】若者は自信をもって国際人に 元内閣官房副長官補 兼原信克さん新刊「歴史の教訓」

「(日本の若い世代が)自信をもって国際人になれるような視点を示したかった」と話す兼原信克さん(萩原悠久人撮影)
「(日本の若い世代が)自信をもって国際人になれるような視点を示したかった」と話す兼原信克さん(萩原悠久人撮影)

 「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」の看板の下、現政権下で活発化した日本外交。その司令塔となった首相官邸で、7年にわたって外交政策の理論的支柱を務めた異色の外交官がいた。兼原信克・元内閣官房副長官補(61)の新著は、直近の外交を担った実務家の観点から、近代日本の失敗の原因と、同じ轍(てつ)を踏まないための国家戦略を探求する。

 歴史書を中心に尋常ではない読書量を誇る、外務省きっての戦略家として知られる。明治維新以降、アジアでいち早く近代国民国家を建設し、法の支配などの普遍的価値観を受け入れながら民主化の道を歩んでいた日本が、なぜ破局に至ったのか。

 本書は、その根源を政治による軍事のコントロールを不可能にした「統帥権の独立」という昭和期の政争の中で噴出した憲法論に求める。この制度上の欠陥が軍という官僚組織の暴走を許して、国際感覚や戦略観を欠いたまま近視眼的な軍事的利益を優先する誤った決定を重ねた末に、負ける戦争へと突き進ませたとする。

 「今の霞が関もそうだけど、近代官僚制というのは各省庁主権主義だから。早い話が誰の言うことも聞きたくない。みんな自分の省の利益を国益だと思い込んでいる。今はやっと政治主導に戻ったけど、ちょっと前までは旧大蔵省主導だったでしょう。戦前はそれが陸海軍だった。各省庁がヤマタノオロチの首のようにバラバラに動く中で、陸海軍の2本の首がやたらと強くて、政府という胴体まで引きずっていった」

 昭和56年の外務省入省後、国際法の解釈や運用などを担う国際法局(旧条約局)畑を中心に歩んだ。転機は、国際法局長を務めていた平成24年。同年末の第2次安倍晋三政権の成立とともに、事務次官級の内閣官房副長官補(外政担当)に抜擢(ばってき)された。以後、首相を直接支える官邸内ブレーンとして活躍。急ピッチで平和安全法制や戦後70年談話などの懸案事項に取り組んだ政権発足当初の3年間が「特に思い出深い」と感慨を述べる。

 そして最大の仕事の一つが、平成25年に内閣に置かれた、安全保障に関する重要事項を審議する国家安全保障会議(NSC)と、その事務局である国家安全保障局の設立だ。それは、本書の執筆理由と深くかかわっている。

 「NSCの仕事は何かと考えたとき、はっきりしてきたのが軍事と外交、広く言えば軍事と政治の統合でした。戦前の歴史を見ると、その統合が徐々に壊れていって、最終的には大日本帝国の敗因になった。その失敗を繰り返さないためにも、戦前の政軍関係はきちんと検証しなければならない。当時の仕事と今回の本のテーマは、頭の中で連動しているんです。政軍関係の強化、健全化という視点から、もう一度歴史をちゃんと見なければならないと思った」

 敗戦に至る国策の誤りははっきり指摘しつつも、近代日本が時代と苦闘しながら進んだ道のりそのものは、実務家として共感を込めて描く。たとえば日露戦争後の明治末に策定された第一次帝国国防方針については「戦略的思考に貫かれ、現在の国家安全保障戦略体系に近く、その論理の組み立て方は現在のものよりも優れている」とするなど、評価すべき部分は率直に評価する。近代日本の原点を、富国強兵や軍国主義ではなく民主化であると位置づければ、その延長線上に将来の日本が進むべき道も見えてくる。

 「歴史認識が分極化している状況で、ミレニアル世代のオープンでまじめな若い子たちが、自信をもって国際人になれるような視点を示したかった。日本はこういう国で、1度大きな失敗はしたけど、決して恥ずかしい国ではないんだよ、と。近代の日本人が何に悩んで、何を目指してどう失敗したのか、客観的に書いた本があればいいな、と思ったんです」(磨井慎吾)

3つのQ

Q評価する近代外交官は

「陸奥宗光、小村寿太郎、幣原喜重郎、吉田茂、重光葵の5人ですかね」

Q故岡崎久彦・元駐タイ大使との交流は

「立派な先輩で大戦略家だった。外務省が弱い細かな軍事の話についてもしっかりしていた」

Q同志社大でも教鞭を執る

「新型コロナで大学に行けずリモート授業が続くことになり、なかなか大変だ」

かねはら・のぶかつ 昭和34年、山口県生まれ。東大法学部卒業後、外務省に入省。外務省国際法局長を経て、平成24年に内閣官房副長官補(外政担当)就任。26年から新設の国家安全保障局次長を兼務。令和元年退官。現在、同志社大特別客員教授。著書に『戦略外交原論』がある。

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