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【痛みを知る】 手術後に避けられない長引く痛みへの対処 森本昌宏

 英国の研究では、ペインクリニックを受診する慢性痛患者さんの実に40%が手術や外傷後に痛みの発生をみている、とある。事実、「手術を受けてからずいぶんとたつんですが、いまだに痛みがあって。手術の失敗ですか?」と、私の外来を訪れる患者さんが多い。手術の失敗ではなく、現時点では避けることができない痛みなのである。今回のテーマは、この慢性痛の原因として大きな問題となっている「遷延性(せんえんせい)術後痛」である。

 原因となった病気、手術部位、手術方法などによってその症状は異なるが、すべての手術がこの痛みを発生する可能性を含んでいる。代表的なものを紹介する。

 (1)「開胸術後痛症侯群」…肺の手術などで背中~脇腹を切開した後に、手術直後とは性質の異なる痛みが6カ月以上続く。手術完遂のためには避けがたい後遺症であり、肋骨(ろっこつ)の下を走る肋間神経、胸膜、肋間筋の損傷が原因となる。肋骨の切除を行った場合には、その発生頻度は約5倍となる。“求心路遮断痛”のひとつであり、痛みを伝える神経が障害されたために起こる。痛みがある部位をつねろうが針で刺そうが痛くはないのに、持続的な痛みを感じているのである。

 非ステロイド性抗炎症薬、さらには麻薬は無効である。ペインクリニックでは、肋間神経ブロックや胸部硬膜外ブロック、胸部神経根ブロックに加えて、プレガバリン(リリカ)やミロガバリン(タリージェ)、抗うつ薬の投与などにより対処している。

 (2)「瘢痕(はんこん)性疼痛(とうつう)症侯群」…手術の傷痕に一致して痛みがあり、触れるとピリピリとした痛みを誘発する場合には、瘢痕性疼痛症侯群を考える。原因の多くは、末梢(まっしょう)神経の切断端に発生した神経腫(コブ)であり、四肢の切断後に断端部位が痛む「断端痛」もこの仲間である。局所麻酔薬と副腎皮質ステロイド薬の局所注射により1回で完治することも稀(まれ)ではない。

 (3)その他…四肢の切断後になくなったはずの四肢や乳房が痛む「幻肢痛」、心臓手術後に前胸部が痛む「胸骨切開後痛」、心筋梗塞などに対して内胸動脈を用いての冠動脈バイパス術を行ったことによる「内胸動脈症候群」、胆嚢(たんのう)を摘出した後に生じる「胆嚢摘出後症候群」、直腸癌(がん)術後の「旧肛門部痛」なども遷延性術後痛の仲間である。

 さらには、手術を契機として「複合性局所疼痛症候群」が発生することもある。痛みによって交感神経系が異常に興奮し、軽く触れただけ、風が吹いただけでも激烈な痛みを生じる過敏状態(“アロディニア”と呼ぶ)を特徴とする。

 このような痛みがある場合には、ペインクリニックを受診されることをお勧めしたい。

 ◇

 【略歴】森本昌宏(もりもと・まさひろ) 大阪なんばクリニック本部長。平成元年、大阪医科大学大学院修了。同大講師などを経て、22年から近畿大学医学部麻酔科教授。31年4月から現職。医学博士。日本ペインクリニック学会名誉会員。 

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