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【ザ・インタビュー】真実の先にある希望を紡ぐ 天童荒太 新作「迷子のままで」

「自分がこの題材に選ばれていると感じたときは、つらくてもやり切ろうという気持ちになります」(酒巻俊介撮影)
「自分がこの題材に選ばれていると感じたときは、つらくてもやり切ろうという気持ちになります」(酒巻俊介撮影)
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 「永遠の仔」や「家族狩り」など、児童虐待や家族に潜む問題に早くから着目し、世に送り出してきた。新しい小説集である本書には、強いメッセージが込められた2つの作品が収められている。

 表題作は、子供の虐待死を軸に、社会が抱える重い問題を浮かび上がらせた短編だ。連れ子のいる女性と暮らし始めた勇輔。ある日、離婚した妻が育てていた息子が虐待の末、死んでしまう。勇輔は悲しむよりも戸惑いが強かったが…。

 「長年温めてきた題材です。マスコミにおける児童虐待の扱いに違和感がありました」と明かす。

 「罪に問われない被疑者がいる気がします」-。勇輔の元妻で、虐待事件で逮捕された暎里を取り調べる女性刑事のせりふは、強い問題提起だ。勇輔と暎里は子供が生まれて半年で離婚。養育費も払われていない。

 「男性は性行為をして、子供が生まれたら面倒になって出ていく。妊娠から出産、生まれてからの大変なことは全て女性が担っている。しんどい思いをした末に事件が起きると女性だけが責められる。実の父親が抜け落ちているんです。父親、あるいは男を免罪化している差別的な社会構造を取り上げたかった」

 一方、勇輔も恵まれた環境で育ったわけではない。「若い世代にとって、生きていく中で自己疲弊に陥らざるを得ない局面がある。自分の卑下ばかりが突き付けられる社会で、性の部分はかっこいいとか、かわいいとか言ってもらえる。彼らにとっての救いがセックス。その結果、子供ができたら大変というところまで思い至らない。マスコミが見ようとしない、そういう人たちの真実を書きたかった」。報道されない、分断された社会の向こう側をえぐり出す。

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 もう一つの収録作「いまから帰ります」は、原発事故の除染作業に携わる人たちを描いた中編だ。映画製作の資金を稼ぐために除染作業員として働く田尾遥也。作業後、外国人労働者を含む仲間と繁華街に出かけていく、その一夜に起こった物語だ。

 テレビ局の企画もあり、これまで東日本大震災の被災地に10回ほど足を運んだ。除染作業員や原子力発電所で働く人たちとも出会った。「命がけで働いている人たちがいて、そこに人間としての生活がある。大切なことなのに政治的なものとして語られないままなのがすごく残念で、いつか何かの形で伝えたかった」

 震災で亡くなった息子を思い続けるタクシー運転手の女性、姉が行方不明のままの女子大学生、外国人排斥を訴える若者、たくましく生きる外国人労働者…。さまざまな背景を持った人の人生が交錯する。「喧噪(けんそう)の一夜というイメージです。この国が抱える矛盾や見ないようにしていること、人間の尊さや希望までも凝縮させました」

 終盤に示される、映画監督の伊丹万作の本に記された一文が鋭く突き刺さる。「『だまされるということ自体がすでに一つの悪である』という、この言葉に触れたのは20歳のころでした。当時は戦争映画がブームで若者が被害者として描かれていた。でもこの一節を知り、ショックを受けました。コロナ禍を生きるわれわれにも響く言葉ではないでしょうか」

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 全国を放浪し、死者を悼む旅を続ける男性を書いた「悼む人」や、原発事故の被災地の海に潜り、遺品を収集する男性の葛藤をつづった「ムーンナイト・ダイバー」など、近年は「生」と「死」に真正面から向き合った作品も目立つ。

 筆歴は30年を超えるが、執筆活動のキーワードは「可視化」だという。

 「人から見えるようにすることは、小説の利点であり武器。ある事象を象徴としてとらえて、その先にある真実を見いだしていく。読者が新しい一歩を踏み出すきっかけになるものを提示するのが物語作家の使命だと思っています」

3つのQ

Q行きたい場所は?

故郷の松山市にある道後温泉。お湯がすごく肌になじむし、帰ってきたなという感じがする

Q最近のリラックス方法は?

ずっと表現する仕事をしてきたので、仕事がうまくいっていることが息抜きになります

Q執筆のときによく聞く音楽は

サザンオールスターズや久石譲さんの曲

(文化部 油原聡子)

     

てんどう・あらた 昭和35年、愛媛県生まれ。61年に「白の家族」で野生時代新人文学賞を受賞しデビュー。平成8年に「家族狩り」で山本周五郎賞、12年に「永遠の仔」で日本推理作家協会賞、21年に「悼む人」で直木賞を受賞。ほかに「ペインレス」、「ムーンナイト・ダイバー」など。

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