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【一聞百見】「知の巨匠」が読み解く日本文化の核心 松岡正剛さん 編集工学研究所所長

「安易な日本論ほど日本をミスリードする」と話す松岡正剛さん=東京都世田谷区の編集工学研究所(松井英幸撮影)
「安易な日本論ほど日本をミスリードする」と話す松岡正剛さん=東京都世田谷区の編集工学研究所(松井英幸撮影)
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 世界が新型コロナウイルスの襲来に揺れている。日本でも社会の大変革が起きているが、「こういう時期こそ日本のかたちを振り返るべきだ」と俯瞰(ふかん)する人がいる。「知の巨匠」と呼ばれる編集工学研究所所長、松岡正剛さん(76)。この春、集大成ともいえる日本文化論の入門書『日本文化の核心』を刊行した。新型コロナにも通じる「黒船」論や独自の切り口「ジャパン・フィルター」を手掛かりに解き明かす日本文化の正体とは-。

(聞き手・山上直子編集委員)

■ジャパン・フィルターで日本化

 --日本には何度も「黒船」が来たと見るのがいいと書かれています。今回の新型コロナウイルスもその一つでしょうか

松岡 日本では安政の黒船以来、なにかが起こると比喩的に黒船来航といわれてきました。新型コロナもですが、古代の仏教伝来、白村江の戦い、中世の蒙古襲来、最近ではIT革命、TPP旋風、5G技術だって黒船です。そう見ると大きく日本の歴史を理解できる。それらはグローバライザーです。最初の一撃は3つの黒船「稲・鉄・漢字」でした。

 --どれも日本の社会や生活を大きく変えました

松岡 稲は食生活を変え、ミノリ(実り・稔り)を願うイノリ(祈り)の文化を作ってきました。日本に稲作が入ったとき、かなり大きな、僕の言葉でいうと日本的な「編集」が行われたのだと思います。鉄も農耕器具や武器を生み、漢字は長らく無文字社会だった日本を大きく変えた。でも、ただ輸入しただけではなかった。「漢字フィルター」でもって「編集」したのです。漢字を中国の発音にならうのではなく、日本流に読み下した。これは最大の文化事件だったと思います。

 --仮名の誕生です

松岡 そのとき、大きな選択があったはずです。当時の中国語や韓国語でそのまましゃべってもよかったのに、しなかった。日本は黒船、つまり外来の文物や思想が来る度に、フィルターをかけてなんとか日本化を試みてきたのです。私はそれをジャパン・フィルターと名付け、50~60のフィルターを用意して紹介しています。

話題の新刊「日本文化の核心」
話題の新刊「日本文化の核心」
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 --具体的には?

松岡 稲フィルターや仮名フィルター、かぶき、数寄、小さきものフィルターといった具合です。柱フィルターもある。日本人は神を「柱」で数えますね。志を立て身を立て国を立てる。日本は「立てる」文化なのです。

 --冒頭で、あえてわかりやすく説明する気はないと断言していますが…

松岡 日本文化はハイコンテキスト(意思疎通を図るときに価値観や考え方が非常に近いこと)です。主語が省略されても全体の文脈で気配を読み取りコミュニケーションを図る。つまり、一見わかりにくいと見える文脈や表現にこそ真骨頂がある。安易な日本論ほど日本をミスリードしていきます。ディープな日本に降りないことには見えてはこないことがあります。

■グローバルを盲信「大国」の錯覚

 --アートや思想、デザインとジャンルを超えた独創性で話題になったオブジェマガジン「遊」を創刊したのが昭和46年でした。57年にフリーになり編集工学研究所を設立しますが、その50年代に入ったころでしょうか。渋谷で食べた、タラコスパゲティにいたく感動されたそうですね

松岡 初めて食べたときに、これが日本がこれまでやってきた「フィルター」だと思ったんですよ。これで日本は大丈夫だと思った。だって、タラコとスパゲティをまぜて、バターベースなのに刻みのりを振りかけるんですから。

 --おいしいです

松岡 そうです、うまいのです。つまり、日本はいろいろな「黒船」がやってきてもその都度、日本的なジャパン・フィルターを使って日本化してきた。よしよし、これで日本はなんとかなると確信したものでしたが…。

 --その後、ダメになった?

松岡 グローバリズムやグローバル資本主義にかまけているうちに(フィルターをかけることを)忘れたかな、と思いますね。司馬遼太郎も『この国のかたち』(昭和61年から急逝する平成8年まで文藝春秋で連載)を書きながら、日本はダメになるかもしれないとつぶやいていた。

校長を務める編集学校の入学式「入伝式」で話をする松岡正剛さん=東京都世田谷区
校長を務める編集学校の入学式「入伝式」で話をする松岡正剛さん=東京都世田谷区
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 --日本的編集が行われなくなったのでしょうか

松岡 グローバルスタンダードを導入ばかりして、上滑りの和風テイストが横行するだけでしたね。グローバル資本主義の時代というけれど、WTO(世界貿易機関)だ、ILO(国際労働機関)だといっても、手を挙げればだれだって仲間になれるんです。宮沢内閣のころに「経済大国」という言葉を作ったのですが、自分でフィルターを作ることをせず、グローバル社会が用意したシステムをもらってきて自分たちは大国だと思った。それが問題でした。それまでは独特のジャパン・フィルターを通して編集していたのです。

(次ページは)評価力を身につけ、かぶいたものを…

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