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「書くことは恐怖に対する感情のパンチ」 米作家バリー・ユアグローさんが都市封鎖下のNYを寓話に

コロナ禍に超短編を紡ぎ続けたバリー・ユアグローさん。「私の作品は自分が世界について感じていることを日記のように反映している」
コロナ禍に超短編を紡ぎ続けたバリー・ユアグローさん。「私の作品は自分が世界について感じていることを日記のように反映している」
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 新型コロナウイルスの感染が米国では最も深刻だったニューヨーク市在住の作家、バリー・ユアグローさん(71)が5月末、ロックダウン(都市封鎖)下の心象風景を投影した作品集を出した。記録性と奇想が溶け合う12編の寓話(ぐうわ)を収めた『ボッティチェリ 疫病の時代の寓話』(柴田元幸訳、ignition gallery)。メールでの取材に、作家が恐怖と不安のなかで言葉を紡いだ日々を振り返った。 (文化部 海老沢類)

 ユアグローさんが暮らすのはニューヨークのクイーンズ地区。自宅から約1キロの距離にはコロナ禍の「震源地」と大きく報じられた病院があった。

 「食料品を買いに外に出るだけで危険が伴う。わなに閉じ込められたような強い脅威を感じました。一瞬にして世界に飲み込まれる、あるいは世界に見捨てられる…と」と回想する。「物語を書くことはそうした恐怖と無力感に浴びせる感情のパンチ、噴出でした。ブルースシンガーが痛みを叫ぶのと同じ。痛みを表現し人と共有する。それで痛みを制御するのです」

 収録作は都市封鎖が続いていた4月5日から5月11日にかけて書き継ぎ、旧知の翻訳家、柴田元幸さんにメールで送った。柴田さんはそれを短期間で邦訳。計44ページの小冊子でのスピード出版が実現した。

 ユアグローさんはわずか1~2ページの、シュールで奇想天外な“超短編”で人気を博す。149編を収めた『一人の男が飛行機から飛び降りる』をはじめ邦訳も多い。コロナ禍の「空気」を寓話化した本書の収録作は一見、超現実的な話のようで妙にリアル。物事の実相を鋭く暴いていく。

 「この『寓話』というスタイルは深い痛みや恐れの記憶を表現できると思うのです」。表題作で描くのは感染者がどんどん美しくなっていく奇妙な病。周囲は病の兆候が出た人に恍惚(こうこつ)のまなざしを注ぐ。だが当の美しい本人は絶望し醜くて健康な人を妬む。「美」と「醜」が倒錯した不穏な世界は、世の常識や価値観が実はもろいものであるということを知らしめる。当時のニューヨークの街の風景から着想した一編だ。

 「誰もが必死の様子でマスクやスカーフを着用する姿は心強くもあれ、やはり不気味で不安にさせられる眺めだった。物事がいかに危険になったかを実感した。ただ、こうしたすべてが、春が訪れて、花々が咲き乱れ、街がみるみる美しくなっていく時期に起きていたのです」

 苛烈な現実を描くが「私は痛みとコメディーを混ぜようとする」というようにユーモアを忘れない。日本の読者にこんなメッセージを送る。「苦しみは人間みんなが共有する普遍的な言語だと申し上げたい。どうか安全を保ち、マスクの着用を続けてください!」

 Barry Yourgrau 1949年、南アフリカ生まれ。少年期に米国に移住し大学時代から作品を発表。『セックスの哀しみ』など邦訳多数。

 『ボッティチェリ 疫病の時代の寓話』(720円+税)は独立系書店などで販売。詳細はignition galleryのサイト(https://ignitiongallery.tumblr.com/)で。

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