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【知っておきたい伝統芸能】大河は初主人公の光秀、歌舞伎・文楽では堂々悲劇の主役

人形浄瑠璃文楽「絵本太功記・尼が崎の段」の武智光秀=平成30年6月、大阪市中央区の国立文楽劇場(提供・国立文楽劇場、協力・人形浄瑠璃文楽座)
人形浄瑠璃文楽「絵本太功記・尼が崎の段」の武智光秀=平成30年6月、大阪市中央区の国立文楽劇場(提供・国立文楽劇場、協力・人形浄瑠璃文楽座)

 今年のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」は、京都の本能寺で、主君、織田信長に謀反を起こした戦国時代の武将、明智光秀が主人公だ。大河ドラマで光秀が主人公として描かれるのは初めてという。

 戦国時代を描いた映画やドラマのヒーローで思い浮かぶのは、織田信長であり、豊臣秀吉であり、武田信玄であり、上杉謙信であった。彼らの武将としての波瀾万丈の人生、人間としてのおもしろさは現代のわたしたちをも大いに魅了する。ならば、光秀はどうだろう。「本能寺の変がなかったら日本の歴史は変わっていた」と言われるほどの大事を起こしたにもかかわらず、主役として描かれなかったのは、若い頃の人生がよくわからないこと、謀反人であることが大きかったのではないだろうか。

 だが、歌舞伎や文楽など古典芸能の世界では、光秀は堂々たる主役として登場する。「本能寺の変」前後の光秀の苦悩と家族の運命を描いた「絵本太功記」、主君、信長(劇中では春永)との葛藤を描いた「時今也桔梗旗揚(ときはいまききょうのはたあげ)」などが有名だ。主君に謀反を起こしたことで起こる武士としての苦しい胸の内、家族や周囲を巻き込んだ悲劇は、重厚な世界観のなかに人間の根元的な苦悩に迫る歌舞伎や文楽の題材にふさわしいのかもしれない。

 ■ ■ ■

 「絵本太功記」は、江戸・寛政11(1799)年に人形浄瑠璃で初演、後に歌舞伎にも移された。史実をもとに、作者がフィクションをまじえて描いた時代物の大作で、なかでも本能寺の変の後、老母、さつきのもとに現れる光秀の姿を描いた「尼ヶ崎の段」は上演頻度が高い。

 皐月の家に旅僧に化けてやってきた真柴久吉(史実の羽柴秀吉=豊臣秀吉)を追う光秀は、謀反を起こした悪人として登場する。歌舞伎では悪の印である藍色の隈取がその証拠だ。不気味な蛙の鳴き声、竹やぶの中から笠で顔を隠して、ぬーっと現れる光秀。笠を徐々に下げていくと信長に割られた眉間の傷、凄みのある顔が現れる。

 だが、光秀の悲劇はここからである。久吉だと思って竹やりで突いた相手はさつき。母は逆臣となった光秀を恥じ、自ら久吉の身代わりとなって息子に刺されたのである。その上、初陣のわが子、十次郎も討ち死にする。

 強い信念をもって信長を討った光秀だが、老母を殺め、わが子を亡くすにいたって、ついに男泣きする。

 〈さすが勇気の光秀も、親の慈悲心、子ゆえの闇、輪廻のきずなに締めつけられ、堪えかねてはらはらはら、雨か涙の汐境…〉

 そこに、人間、光秀の臓腑を振り絞るような苦しみ、悲しみがある。

 ■ ■ ■

 光秀の心中に思いをはせながら初夏の本能寺を訪れた。

 京都市役所(京都市中京区)の向かい、御池通りをはさんだあたりに現在の本能寺はある。新型コロナウイルスの影響か、閑静な境内には親子連れが一組いるばかりだ。本堂の奥に、信長の霊をまつる「信長公廟」が静かなたたずまいを見せていた。

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