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横転事故の身代わりで首が飛んだ地蔵…ホラー作家・田辺青蛙さん新刊「関西怪談」

「土地にまつわる不思議な話や伝承を取材するのが楽しい」と話す田辺青蛙さん=大阪市浪速区(前川純一郎撮影)
「土地にまつわる不思議な話や伝承を取材するのが楽しい」と話す田辺青蛙さん=大阪市浪速区(前川純一郎撮影)
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 大阪市在住のホラー作家・田辺青蛙(せいあ)さん(37)が、収集してきた上方の怪談奇談をまとめた本「関西怪談」(竹書房)を刊行した。背筋凍る奇怪な話から、伝承や民俗学的な趣の話まで、読み応え満載だ。(横山由紀子)

 「昔から、妖怪やお化けの話、土地にまつわる伝承が好きで、どこそこに河童(かっぱ)が出た伝説があるよ、と聞くと出かけて、メモを取ったり写真を撮ったりしていました」と話す田辺さん。

 本書には、そんな田辺さんが実際に体験したり、人から聞いたりして集めた58話を収録した。

 知人男性が京阪電車の京橋駅(大阪市都島区)近くの道路で、自転車で車にはねられた。背中を地面に強打したが、検査では異常なし。しかし、自転車は半分ぺちゃんこにひしげていた。思わず近くの地蔵を拝むと、昭和44年の由来書きが目に入った。当時この地で車が横転する激突事故があったが、運転手にかすり傷ひとつなくなく、地蔵の首だけが飛散。以来、交通災害の身代わり地蔵として手厚くまつられており、知人男性は「僕が無傷だったのは偶然ではなかった。お地蔵さんに守られた」と感謝しているという。

 田辺さんは、「お地蔵さんの由来書きと、本人の体験がリンクしていて不思議です。お地蔵さんは、地域で守られていて地蔵盆などもあるので、起源や歴史をつかみやすいのです」。

 同市中央区の曲渕地蔵尊は、豊臣秀吉が工事で川筋を曲げため、流れが急になり、水難供養のためまつられたのだという。明治期には近くの川で河童が泳ぐ姿が見られ、河童の名所と呼ばれたそうだ。また、同市城東区に1970年代ごろにあった地蔵は、はやり歌を“歌う”といわれ、石原裕次郎の歌がよく聞こえてきたそうだ。

 同市都島区の桜通り商店街の一角にある鵺塚(ぬえづか)も、由来書きが掲げられている。平安末期、京都の御所に夜ごと現れる鵺という怪獣に帝が悩まされ、矢で射落としたところ頭はサル、胴体はタヌキ、四肢はトラ、尾はヘビの姿だった。川に捨てたところ、この地に流れ着き、村人がほこらを建ててまつり、現在も大切に守られている。田辺さんがホラー作家らと怪談イベントを催した際、民家の屋根を跳ね回っている鵺を見たという人が現れ、スケッチを見せてくれたという。

 「何か物語があった方が、見慣れた風景ががらりと変わって見えて面白い。また、その土地の伝承や民話をひもといていくと、思わぬところでつながっていて興味深いなと思うこともあります」

 一方、ゾッとする話もある。海外から来た雑誌の編集者が、同市西成区の飛田新地で遭遇した出来事。スラックスだけの下半身がよたつきながら歩いてくるのを目撃し、「あれ、手品かな? 手の込んだパフォーマンスかな」と携帯電話で撮影しようとズームを寄せていたら、パチンと消えてしまったという。

 ほかにも、寺で予言めいた声が聞こえた話や、動物園近くで見た異形など、さまざまな怪異が語られる。

 現在は、コロナウイルス禍で開催できないが、地元の商店街で怪談会をやると盛り上がるという。「自分も語り手として参加できるからでしょう。俺めっちゃ怖い話あんねん、と言って、小学生が集まってくれたりします」

 田辺さんは現在、マネキンに産毛が生えていた話など人形に関する怪談を執筆中だ。さらに今後は、「地域伝承をもとに、自分なりに小説にできたら素敵だなと思っています」と話している。

 たなべ・せいあ 昭和57年、大阪市生まれ。オークランド工科大学卒業。平成20年、「生き屏風」で日本ホラー小説大賞短編賞を受賞し作家デビュー。著書に「あめだま 青蛙モノノケ語り」「魂追い」「人魚の石」、共著に「読書で離婚を考えた。」など。夫は芥川賞作家の円城塔さん。

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