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【私と胸高鳴る人たち(2)】青木崇高が語る 歌舞伎の100年後も見据えた猿之助さん

画・青木崇高
画・青木崇高

 「もしもし青木です。突然ですけどこれからご飯いかがでしょうか?」

 電話の相手は「四代目市川猿之助」。亀治郎から猿之助への襲名パーティーでいただいた連絡先に思いきってかけたのだ。「ええ、いいですよ。じゃあ場所は…」と快諾してくれた。通話を切ると携帯電話は手汗でビショビショだった。

 「すいません本当に突然で。亀治、いや猿之助さん」。お誘いしたのはいいが、何を話していいものやら。共通する話題がほぼないことに今さら気付く。

 「あの、今、NHK大河ドラマの『平清盛』で武蔵坊弁慶を演じているんですけど、歌舞伎における弁慶とはどういったものですかね、演じる上で世間の弁慶像とはどう距離を取るべきですかね」などと、知った風な、なんだかよくわからないことを聞いていた。

 そんな曖昧な質問に対し猿之助さんは「大丈夫、弁慶本人のこと知ってる人なんかおらへんし。演じたもん勝ちやで」と意外な答え、そして意外な関西弁。しかしこの答えがとても自身の腑に落ちた。はあはあ、なるほどそうか、そうか。こちらの緊張は次第に解けていき、そこからは舞台、芸能、仏教、美術などの話で盛り上がった。

 「しかしこの人、なんでこんなに物知ってはんねん」

 以来、猿之助さんの舞台は、東京、名古屋、大阪、四国と追いかけて観に行っている。なかでも私は「黒塚」が大好きだ。すすきの原に月光が輝く幽玄の世界。老女、鬼女の踊り。呼吸を忘れるほど魅入ってしまった。「しかしこの人、なんであんな美しい動きできんねん」。舞台と映像、型とリアリティー。同じ「役者」でありながら同じ職業ではないなと思った。

 すっかり魅せられ、感動のあまり涙を浮かべながら楽屋に伺うと、「お、むねちゃん、お疲れさま。さて何食べにいきましょか?」。ニコニコと化粧を落とす猿之助さん。「いやいや、さっきまでの感動はなんやってん」

 先代猿之助さん(現・市川猿翁)の精神を引き継ぎ、近年では古典だけでなく、スーパー歌舞伎II「ワンピース」「新版 オグリ」と挑戦を重ねている。「ワンピース」はまさに極上のエンターテインメントだった。歌舞伎はもともと大衆娯楽だったのだと思い知らされる。

 「ああ、この人は歌舞伎の百年後、その先まで見据えてんねんや」

 観客総立ちの熱い手拍子のなか、主人公ルフィの輝く姿を見てそう思った。

 初めての会食から1カ月後、古美術収集が趣味でもある猿之助さんからプレゼントをいただいた。月夜の京都・五条大橋、七つ道具を背負う弁慶が義経と戦っている浮世絵である。

 「日本の宝」からいただいたお宝。額装し、大事に大事に飾っている。(俳優)

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