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【ザ・インタビュー】「希代の色男」の生涯描く 高樹のぶ子さん新刊「小説 伊勢物語 業平」

「政治家ならダメだけど、日本の文化を花開かせた人」。在原業平の人物像をこう語る高樹のぶ子さん(酒巻俊介撮影)
「政治家ならダメだけど、日本の文化を花開かせた人」。在原業平の人物像をこう語る高樹のぶ子さん(酒巻俊介撮影)
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 平安期の歌人、在原業平(なりひら)が主人公とされる歌物語「伊勢物語」をモチーフに、彼の一代記となる小説を紡ぎ上げた。恋愛小説の名手は、希代の色男の生涯をどう描いたのか。

 「血筋はいい(天皇の孫)けれど本筋ではなく、トップの権力に近づけば抹殺されることを本能的に知っている。女遊びは止められないが、誠(まこと)は尽くす。“ヤバい”となれば身を隠し、何となく許されてしまう…。『軟弱なサブ』として人生を歩みながら歌人として名を成し、最後はメインの人を抜いてしまう。政治家ならダメだけど、日本の文化を花開かせた人」

 もちろん、恋愛の場面はたっぷり。後に天皇の后(きさき)になる藤原氏の姫との逃避行、神に仕える伊勢神宮の斎宮(さいぐう)との逢瀬、性愛の手ほどきをしてくれた年上の人妻…。思い込んだら、他人の想(おも)い人であれ、禁忌を犯してさえも、まっしぐら。

 「男として自分の衝動に正直というのかな、オスとしては当然の行動ですよね(苦笑)。まぁ、『かわいい男』ですよ。複数の相手との交際が当たり前だった『時代』もありました。現代から見て想像はできてもジャッジすることは難しい」

 小説にするに当たって最も苦労したのが文体だという。“歌の人”業平の物語だから、和歌は絶対に外せない。原文のまま歌を取り込み、どういう状況で歌われたのか、を物語の中で説明したいと考えた。

 「そのための文体を何年も考えました。雅(みやび)さを出すための『ですます調』。それがだらだらしないように『体言止め』を使う。もちろん、無責任なフィクションにもしたくない。この時代を知る、よすがになるような物語を書きたかった。面白がって調べ始めてから、結局5年ほどかかりましたか」

■ ■ ■

 今では「平安」という時代にとりつかれている。 

 「日本人の精神性の原型をつくった時代。雅さ、奥ゆかしさ。歌のやりとりでコミュニケーションを取る、恋愛感情を通わせるといったクッションを置いた美意識。十二単の衣装みたいに、非合理的だけど雅さを感じるといったこと。死刑が廃止されて、政治犯を殺さないようにしたのもこの時代のすごさです。一方で、陰謀や権謀術数が渦巻き、凶事が起これば怨霊のせいにして怖がってしまう」

 今回の作品で“平安もの”の文体をつかんだことは今後の自信にもつながった。「この時代をよみがえらせるフィクションを人物伝として、もっと描きたい。古典の現代語訳でなく小説として書きたいのです」

 ところで、3年前にインタビューしたときには、自身の年代に合わせて、これからは「70代の恋愛小説」を書きたい、という話をしていたはず。昔に比べて、みんなどんどん“若く”なっているし、いくつになっても恋愛をすべき。あきらめたら後で心身ともに「しっぺ返しをくらう」という話まで…。

 「うーん、とにかく今は平安時代かな。『70代の恋愛小説』は(私が)80代になったときに取っておきますよ。作家は、目の前の面白いことに夢中になってしまうものだから」

【3つのQ】

Q最近読んで面白かった本は?

古典なら平安期の「とりかへばや物語」。あの時代にもこんな漫画チックな物語があったんだと驚き、興味深く読んだ

Q今の若者の恋愛観で違和感を覚えるのは?

人生に占める性愛の意味が小さくなっていること。その分、人生の喜びも苦しみも人間関係も希薄になっている気がする 

Q作家以外でなりたかった職業は?

一番あこがれていたのはブリーダー。自分の手で命を生み出すということのステキさ。それは動物・植物相手でも変わりない

(文化部 喜多由浩)

 たかぎ・のぶこ 昭和21年、山口県出身。東京女子大短期大学部卒。55年「その細き道」で作家デビュー、59年「光抱く友よ」で芥川賞、平成7年「水脈」で女流文学賞、11年「透光の樹」で谷崎潤一郎賞、22年「トモスイ」で川端康成文学賞を受賞。21年、紫綬褒章。恋愛小説からミステリー、エッセーなど幅広いジャンルで活躍。

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