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【ザ・インタビュー】コロナ禍の今こそ古典作品のよみどき 経済学者・野口悠紀雄さん

経済学者の野口悠紀雄さん
経済学者の野口悠紀雄さん

 新型コロナウイルス禍で外出自粛が続くいまだからこそ、腰を据えて古典を読むべきだ-。大ベストセラーの情報整理術『「超」整理法』シリーズや、1990年代の構造改革論をリードした『1940年体制』などの著書で知られる経済学者、野口悠紀雄さん(79)。その新刊『だから古典は面白い』は、文学作品をはじめとする古典の楽しみ方を、無類の読書家が丁寧に案内してくれる。

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 書店の店頭には、毎月大量の新刊が入れ代わり立ち代わり並ぶ。だが、その中で時の流れに耐えて後世まで残る本は、ほんのわずかだ。価値ある読書をしたいのならば、現れては消えるベストセラーをあれこれあさるよりも、歳月による淘汰を経た古典を読む方がはるかに効率がいい。野口さんは、そう説き起こす。

 「ビジネスに役立つものを探しているのなら、ドラッカーの『マネジメント』を読む前に、まず聖書を読むべきです。ドラッカーはせいぜい50年。聖書は2千年にわたり読まれてきたベストセラーですから」

 聖書でのイエスは、説教にあたり比喩を多用する。よく知られたものに、弟子たちに自己犠牲の意義を説く「一粒の麦、地に落ちて死なずば、唯一つにて在らん、もし死なば、多くの果を結ぶべし」(ヨハネ伝第12章)があるが、野口さんは、ここには「すり替え」があると指摘する。

 発芽した麦は元の麦粒の状態でなくなっただけで、別に生物学的に死んだわけではないし、そもそも死んだ麦からは芽が出ない。だが、生きている麦を死んだ麦にすり替えるこの巧妙なイメージ操作のおかげで、直後に続く「己が生命を愛する者は、これを失ひ、この世にてその生命を憎む者は、之を保ちての生命に至るべし」というイエスが本当に主張したかった一節が、聞く者の心に強い印象と説得力をもって刻まれるわけだ。

 「聖書は説得術の教科書として、最も優れているといえます」

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 ほかに取り上げられる作品は、シェークスピアの悲劇『マクベス』から20世紀英国のファンタジー小説『指輪物語』まで、実に多彩だ。それら古今の名作に対し、野口流の読み解きが縦横に展開される。たとえば、ナポレオン戦争下のロシア貴族社会の群像を描いたトルストイの長編小説『戦争と平和』については、歴史に必然の法則はあるのかという問題や、戦場という不完全な情報環境下での人間や組織の意思決定のあり方など、さまざまな方向に思索を発展させるとし、「ある意味で最高の経済書」と位置づける。

 ただ、本書はそうした「役に立つ」読書ばかりを推奨しているわけではない。野口さんは同じくトルストイの代表作である長編『アンナ・カレーニナ』にも思い入れが深いが、美しい人妻が不倫の恋の末に鉄道自殺するというこの悲劇の物語を読んだからといって、「人生の役に立つわけではないし、生きる上での知恵が得られるわけでもない」と断言する。だが、自分とはまったく違う人生を現実であるかのように経験させてくれる同作は、実用性の有無とは関係なく偉大な作品であるという。

 「『アンナ』を読んだことのある人間と、読まない人間は違うんです。もちろんどちらが偉いとか、そういう話ではない。単に経験が違うというだけなのですが、その経験は間違いなく人生を豊かにしてくれるものなのですよ」

 紙をめくるだけで過去の偉大な知性と対話できる古典を読むことには、さまざまな効用がある。

 「特にコロナ騒ぎで家にこもらなければならなくなった現在は、読書に絶好の時期だと思いますね。この時期に古典を何冊読んだかで、その後の人生が決まるのではないでしょうか。そういう意味で、この本がガイドになってくれればいいのですが」  (文化部 磨井慎吾)

     

【3つのQ】「戦争と平和」3回目の通読に挑戦

Q読み返したい古典は

本書で挙げた本すべて。特に『戦争と平和』の3回目の通読はぜひやりたい

Q本書では欧米作品が多いが、日本古典では

一番書きたいのは『新古今和歌集』。おそらく日本文学の最高峰でしょう

Q文学書の読み方は

とにかく最初からずっと通読すること。論文や専門書は必要なところだけ読めばいいが、文学でつまみ読みはいけない

 のぐち・ゆきお 昭和15年、東京生まれ。東京大工学部を卒業後、大蔵省(現財務省)に入省。一橋大教授、東大教授などを経て、早稲田大ビジネス・ファイナンス研究センター顧問。経済学博士。一橋大名誉教授。著書は『年金崩壊後を生き抜く「超」現役論』など多数。

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