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【みうらじゅんの収集癖と発表癖】還暦コスプレ 「老いるショック」の証明

還暦はやっぱ、コレでしょ
還暦はやっぱ、コレでしょ

 「そろそろ還暦だよね?」と、近づいて、持参した大きな紙袋から、例の赤いコスチュームの入った箱を取り出す。

 「やっぱ、一度はコレ、やっとかないとね」

 相手にうむを言わせず、背後からそっと赤いちゃんちゃんこを羽織らせ、そして、赤いふっかふっかの頭巾もちょこんと頭に載せる。「コレね、ちょっと斜めに被るとチェ・ゲバラ風になるから」

 そんなファッション・アドバイザー気取りで「陽気に笑って!」と、素早く相手のその姿を写メで撮る。「いいね、いいね、もっとアクションつけてみようか。そう、そう!」

 当初、当惑してた相手も、撮影時にはまんざらでもない面持ちで自分なりのベストポーズを決めている。

 還暦祝いは通常の誕生日とはわけが違う。こんな赤い大黒さんみたいなコスプレで、みんなから嘲笑を頂く大切なセレモニーだから。昨今は、「あのカッコをするのだけは嫌だ」と、赤い革ジャンやコートで代用する輩(やから)が増えていると聞くが、そんなの虫が良過ぎるぜ。やっぱ、ここは今までのカッコつけの人生を台無しにする赤いちゃんちゃんこ&頭巾に限る。

 それにこれは遂(つい)に始まった老いるショックの証明でもあるのだから、この先、しんどい時は堂々「しんどい!」と、叫んでも構わないし、低い段差につまずいても別段、おかしなことではない。

 霞目(かすみめ)上等、尿漏れ上等、やたら早起き上等、もの忘れ上等、身体の至るところ具合悪くて上等が国家レベルで許可されるコスプレなのである。

 「一生、現役」とか、「いつまでも青春」なんて、無理あるセリフも吐く必要はない。だから、コレをやるか、やらないかでは大きく今後の余生が変わる。

 「撮影はこれでオッケー! ちゃんちゃんこ脱いで」

 今度はサインペンを取り出し、「ちゃんちゃんこの背中に自分の名前を書いてよ」と、依頼する。これは言うなれば優勝旗のようなものである。人生で一度も体育会系クラブに所属したことがない僕ではあるが、自らかって出た還暦連の理事長として後世に残していかなければならない。現在、久本雅美、山田五郎、渡辺祐(たすく)と還暦後輩たちの寄せ書きは少ないが、いずれ、ちゃんちゃんこ全面を埋め尽くす日もそう遠くはないだろう。僕は還暦を過ぎ、もう2年も経つ。再びこのコスプレで人前に登場した時は、完全にアイツ、ボケたんだなと思って貰(もら)って構わない。(作家、イラストレーター)=月1回掲載します

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